ボルベール 帰郷

原題 Volver
製作年 2006
製作国 スペイン
監督 ペドロ・アルモドバル
脚本 ペドロ・アルモドバル
音楽 アルベルト・イグレシアス
出演 ペネロペ・クルス、 カルメン・マウラ、 ロラ・ドゥエニャス、 ヨアナ・コボ、 ブランカ・ポルティーヨ、 アントニオ・デ・ラ・トーレ

これはとんでもなく型破りな映画で、アルモドバル監督にしか撮れないと思えます。
もしあなたが、「”殺人”、”不倫”、”近親相姦”、”末期癌”、”幽霊” という要素を前面に出しながら、コミカルに家族愛を描きなさい」と言われたら、白旗を上げるか悩み続けるかのどちらかでしょう。
アルモドバル監督はその難題を軽く乗り越え、瑞々しく感情的で豊かな映画に仕上げます。

一方で、これは “過去と現在”、”伝統と現代”、”田舎と都会” の間で揺れ動く労働者階級の母親ライムンダの物語です。
彼女のルーツは故郷の村と由緒ある慣習、そして村に秘められた幽霊の謎にあります。
しかし、マドリードに移り住み、バラハス空港の床をモップがけする都会での生活は、過去から離れたいという彼女の願望を適切に実現しているとは言えません。
だからアルモドバルの作品の主人公の多くは、自分の過去を探求するために故郷へと向かいます。
未来へ向かうために過去を振り返り、清算しなければならない。
ドン・キホーテの時代は風車の脇を通りましたが、ライムンダは巨大な風力発電機の脇を通って故郷に戻り、母親・自分・娘と3世代に渡る災禍を精算しようとします。
レストランで歌うシーンでも、ライムンダは母と練習した歌を娘に聞かせますが、実はその歌を隠れて車の中で母も聞いて涙するという、3世代に渡る悲しみの昇華を描いたとても感情的なシーンでした。

彼女は娘の殺人を隠蔽します。
手際よく後始末する様子はまるで家事のようで、男性が1人死んでもアルモドバル監督の映画には影響がなく、掃除の手間が増えるくらいだと言わんばかりです。
むしろ男性のせいで女性が苦労しなければならず、男性がいなくなることで解放される描き方は、アルモドバル建築の床下を支え続ける基礎です。
殺人を正当化しようとはしていませんが、この映画では2つの事件を “抑圧されてきた女性の抵抗” を象徴しているに過ぎません。
ライムンダが困った時は、周囲の何気ない女性が快く助けれてくれます。
そこに男性は不在で、これもアルモドバル映画ならではですね。

アルモドバル監督はペネロペ・クルスの胸の谷間が大好きです。
謎に頭上のアングルから谷間を強調して撮ったり、「また胸が大きくなったんじゃない?」と母親に言われる謎セリフがあったり、遊び心を差し込んできます。
これはアルモドバル監督もインタビューで「僕はゲイだが、女性の胸が大好き!」と答えているので本当なのでしょう。
蛇足でした。

 

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