パプリカ

原題 PAPRIKA
製作年 2006
製作国 日本
監督 今 敏
脚本 水上 清資、 今 敏
音楽 平沢 進
出演 林原 めぐみ、 江守 徹、 堀 勝之祐、 古谷 徹、 大塚 明夫、 山寺 宏一、 田中 秀幸、 こおろぎ さとみ、 阪口 大助、 岩田 光央、 愛河 里花子

今 敏 監督の遺作となった『パプリカ』は筒井康隆の原作を踏襲しつつ、『PERFECT BLUE』『千年女優』で描いた “何度も行き来する現実と非現実”“執着心が行きつく先” という共通テーマを拡張し、何階層もの夢の世界を現実化したとんでもない描写で時代を先駆ける。

「無意識の現実的な夢」、「意味不明な混濁した夢」、「意図的に操作された夢」をシームレスに繋げるのではなく、3つを重ねて同時に描くという、クリエイターにとっては悪夢のような描写がこれでもかと続く。
その圧倒的なパワー、表現力、エキセントリックさに、冒頭からのめり込んで観てしまう。
原作をコンパクトにまとめ、90分で分かりやすく完結させてしまう脚本もまた素晴らしい。

主人公はパプリカの皮を被った敦子なのだろうか?
それとも敦子の皮を被ったパプリカなのだろうか?
本当の感情を隠しているのは敦子なので、恐らく後者なのでしょう。
2人の間の葛藤は、「どちらが本当の私?」という混乱を描いた『PERFECT BLUE』と似ている。

また、敦子の行動は『千年女優』の千代子のように、強い精神力に支えられている。
その姿に感心する粉川刑事は、同じく『千年女優』の立花のようだ。
悪役の乾も『千年女優』に出てくる “糸車の老婆” と同じ役割を果たしている
一方、敦子が世界を救おうと悪戦苦闘する様は、『東京ゴッドファーザーズ』の3人から来ているようにも見える。

そう考えると、『パプリカ』は今 敏監督の過去が詰まった作品だったのかもしれません。

 

非人間的な現実世界にあって、唯一残された人間的なるものの隠れ家
それが夢だ
あのパレードは現実を否応なく追われた難民なのだ

このセリフも、『東京ゴッドファーザーズ』で社会から見捨てられたホームレス・家出少女・捨て子を中心に描いたことにリンクしている。
今 敏 監督の中には弱者の視点がある。

科学が生活のすべてを支配する世界において「現実から離れる最後の逃げ場が “夢”」で、科学がそれを破壊して良いのかと問うセリフは、制度と競争の世界に置いていかれた弱者を守るべきとも読み取れる。

原作との大きな違いは、映画だけに粉川刑事が存在すること。
映画作りを断念した悪夢に囚われ続ける様子は、途中でアニメーターの夢を諦めた同胞たちに対する惜別や励ましなのかもしれません。
もしくはラストで『PERFECT BLUE』『千年女優』『東京ゴッドファーザーズ』のポスターを眺める様子から、今とは違うもう一人の自分がいた可能性を示唆しているのかもしれません。

これで 今 敏 の全4作品は終わりですが、『MEMORIES』でも協力した大友克洋の流れを汲み、実写映画も含めて世界に影響を与えた偉大なアニメーターでした。
この映画は、彼の集大成だと思っています。

 

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