太陽と桃の歌

原題 Alcarras
製作年 2022
製作国 スペイン・イタリア
監督 カルラ・シモン
脚本 カルラ・シモン
音楽 アンドレア・コッチ
出演 ジョゼ・アバッド、 ジョルディ・プジョル・ドルセ、 アンナ・オティン、 アルベルト・ボッシュ、 シェニア・ロゼ、 アイネット・ジョウノウ、 モンセ・オロ、 カルレス・カボス、 アントニア・カステルス

昨日観たメキシコの秀作『夏の終わりに願うこと』と同じように、この映画はスペインを舞台に子供たちが生きていく現実を描きます。
小さな子供たちが遊ぶのは農園の中で、生活も仕事も遊びもすべて農園で完結している。
ある日、農園の片隅に放置され子供たちの大好きな遊び場だった “廃車” が、突然撤去された。
これは映画の冒頭でよく見られる、”映画のテーマを例えた描写” です。
だからこの後、大きなストーリーは “一家が土地と家を追われる物語” になっていきます。

【祖父】
祖父の代に地主から譲り受けた土地に住んでいますが、当時は口頭と信頼で成り立っていたため、契約書なんて当然ありません。

だから世代交代した地主に「出ていけ」と言われても、先代の地主も亡くなっているし、成す術がないのです。
子供や孫たちの住む場所がなくなるので新しい地主に当時の経緯を説明すべきですが、特に何をするでもありません。
時代から取り残され、家族の中でも徐々に孤立していく年代を表しています。

【父】
一家の大黒柱ですが、突然土地を追われることになり苛立ちます。

しかし桃を収穫しないことには生計を立てられません。
だから今年も一家総出で農作業です。
息子に同じ仕事を継がせられないとあらかじめ知っていたようで、息子や娘には勉強して大学に行くことを強く勧めます。
一方で息子には膨大な農作業のノルマを課しています。
父親自身が “目先の生活” と “次の世代の未来” の板ばさみとなり、大きなジレンマを抱えています。

【息子】
大人しいですが、苛立つ父の心境を良く理解しています。
だから勉強もするし、農作業も欠かさずやります。
もうすぐ土地を追われることは理解していますが、自分が何かできるわけではないし、もしかしたら農作業から解放される安堵感があるかもしれません。
将来は不安ですが、まずは桃を収穫しなければなりません。

【妹(長女)】
この映画の視点は実はこの長女かもしれません。
祖父/父/兄、三世代の男たちを含め、家族全体を眺める実は “影の主役” なのです。
考えていることは兄と同様。
夏が終われば住んでいる場所が消え、心の中の思い出も消えることを知っています。
でも、どうすることもできません。

【妹(次女)】
まだ幼いので、従妹の双子を従えて毎日遊んでいます。
でも廃車は撤去されるし、秘密基地も父親に解体されてしまいます。
大人の都合によって制約を受けますが、なぜそうなるのか納得のいく説明は誰もできません。
周囲が次女に対して行っていることは、実は地主が一家にしていることと一緒です。

この映画のテーマは、”社会の大きな流れに翻弄される人々” です。
身の回りの小さな世界は、ある日突然奪われるかもしれません。
理由はありますが、十分な説明はなされず、説明を受けても納得はできません。
“大きな意思決定をする立場” と、”労働者などの一市民の立場” は大きく異なるので、意見はまったく合わないのです。
だから為政者は淡々と物事を進め、結局市民は無力で受け入れるしかないのです。

一方で原題にもなっているこの土地は、一家が本当に守るべき土地なのでしょうか?
地主ならまだしも、彼らは小作人です。
子供世代にとっては、もしかしたら土地は “縛り付けるもの” でしかなく、未来は別のところにあるのかもしれません。
親世代までの価値観と若い世代の価値観は、どうしても異なります。

そんな2つのことを考えさせられる映画でした。

 

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