アメリカン・フィクション

原題 American Fiction
製作年 2023
製作国 アメリカ
監督 コード・ジェファーソン
脚本 コード・ジェファーソン
音楽 ローラ・カープマン
出演 ジェフリー・ライト、 トレイシー・エリス・ロス、 ジョン・オーティス、 エリカ・アレクサンダー、 アダム・ブロディ、 レスリー・アガムズ、 キース・デイヴィッド、 イッサ・レイ、 スターリング・K・ブラウン

世界的に評価され、アカデミー賞でも5部門にノミネートされた小さな話題作。
監督のコード・ジェファーソンとは誰?と思ったら、これがデビュー作でした。
テーマはアメリカならではの人種問題ですが、リベラル思想に対する皮肉を大いに交え、”笑うに笑えないが笑える” 絶妙の匙加減です。

 

その言葉は間違っています。

冒頭で白人の女子学生が主張する思想は、まさにこの映画が製作された2023年前後の “行き過ぎたリベラル思想” を象徴しています。
黒人教授が「アメリカ南部の文学」を説明するために敢えて黒人に対する差別用語を書き、なぜか白人女性が “受け入れられない” と泣いて教室を出ていく。
背景や文脈を無視し、「なんでもかんでもNOと否定することが正義」とする悪しきリベラル思想が絶頂にあった時代です。

この後に登場する白人たちも、基本的にはリベラル思想なのです。
彼らは差別に反対し、黒人の人権を声高に訴え、「自分は善意に溢れた人間だ」と信じて疑わないのに、黒人をステレオタイプの型に押し込めて満足している。
これは「無意識の偏見(アンコンシャス・バイアス)」であり、「自覚なき差別(マイクロアグレッション)」という思考・行動です。
つまり “本物らしい黒人” という誤ったイメージを正義のように振りかざす、やっかいな存在です。
白人だろうが黒人だろうが人種による “本物らしさ” なんて存在せず、どの人種でも現実は一緒なのです。

裕福で学歴もあり優秀な黒人は周囲が思う黒人像と異なるため、彼らはとても居心地が悪いのです。
これは映画に登場するように文学界や映画界などのメディアのせいでしょうか?
それとも、その先にいる購読者や視聴者である我々のせいなのでしょうか?
答えは “両方” なのでしょう。

 

俺の仕事なんて頭の中で空想の人物に会話させるだけ。

本は人生を変える。

本来、モンクが目指している純文学は人間や世界の深い部分に光を当て、えぐり出し、言語化し、物語に乗せて人々に届けるものです。
しかし、出版社がその機能を果たせておらず、「大衆が喜びそうなもの」という色眼鏡を付けて振るいに掛ける。
これは現在の編集者や文学賞の実態を表しているんだと思います。

 

あいつのどこがいい?

面白い。笑える面白さじゃなくて哀れな面白さ。
3本足の犬よ。

トイレで死にそうな奴。

主人公のモンクは大衆に迎合しない作家ですが、そのせいで社会的にも家族内でも少し孤立しています。
自分のことを好きだと思っていたコララインも、実は彼を尊敬しておらず、憐れんでいます。
これまで白人家庭で描かれてきたような問題がモンクを含む家族に次々と降りかかり、”人種に関係なく人間は皆一緒” だと分かります。

やけっぱちで始めた偽装も、ラストはモンク自ら大衆に迎合して映画用のラストを考えます。
自らに向けられた銃口は、理想よりも現実に流された弱さに対して向けられたものかもしれません。

 

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