AMY エイミー

原題 Amy
製作年 2015
製作国 イギリス・アメリカ
監督 アシフ・カパディア
脚本
音楽 アントニオ・ピント
出演 エイミー・ワインハウス、 ミチェル・ワインハウス、 ジャニス・ワインハウス、 ニック・シマンスキー、 レイ・コズバート、 マーク・ロンソン、 サラーム・レミ、 トニー・ベネット

アイルトン・セナ、ディエゴ・マラドーナ、ロジャー・フェデラーなどの伝記ドキュメンタリーを手掛けるアシフ・カパディア監督が2015年に制作し、アカデミー長編ドキュメンタリー映画賞に輝いた夭逝の歌姫エイミー・ワインハウスを描いたドキュメンタリー。

出したアルバムは2003年の『フランク』と、2006年の『バック・トゥ・ブラック』のみ。
この頃に洋楽を聞いていた人でないと、エイミー・ワインハウスのことを知らないかもしれない。
逆に洋楽を聞いていた人は、ほとんどの人が知っているだろう。
闇の深さと圧倒的な歌声を持ち合わせた衝撃的なデビューだった。
そしてその後の転落も、「あぁやっぱり」と思わせる何かが初めから彼女には内在していた。

 

誰かに2曲入りのデモを渡された。
売れる要素はなかったが、心を揺さぶるものがあった。
そういうアーティストには面白い背景があるものだ。

オフィスへ来た時の第一印象は自然の猛威だ。
私は思った。本物であって欲しいと。

あの作詞作曲の手腕を見ると、肉体は若いが魂は老成していた。
たちまち契約成立だ。

自己の経験 “のみ” に基づいて歌詞を書き上げ、ジャズベースの圧倒的なハスキーボイスで歌い上げる。
その歌詞は “気取る” とは真逆の、自虐的で暗い心情から漏れ出す言葉。
そんなシンガーは滅多にいない。
彼女は本物で、エラ・フィッツジェラルドやビリー・ホリデイに匹敵する素晴らしい才能だった。
ただ、精神が安定していなかった。

ドラッグ抜きじゃ退屈なだけよ。

グラミー賞受賞直後の舞台裏で親友に打ち明けた一言。
映画が明確に示しているように、彼女は数々の機能不全に悩まされており、必然的に自己破壊の道へと進んでいく。
多くの危険信号は、有名になる前から存在していた。
中毒性のある性格、薬物とアルコールへの不健康な欲求、人を操る男性への弱さ、幼少期の両親の離婚に端を発する父親問題、メディアに対するコミュニケーション不全、そして生涯にわたる鬱、過食症、そして自己不信との闘い。
だが、このドキュメンタリーを見る限り、彼女を改善の道に誘導せず、むしろその特性を悪化させたのは父親と元夫。
恐らく “共依存” と呼ばれる関係性に過度に陥っていた。
元夫のブレイクと激しく口論し、流血し、やつれた姿を晒すのを見ると、現代版 “シド&ナンシー” かと思わせる。
唯一のプラス面は、その生活から『バック・トゥ・ブラック』が生まれたということだけだ。

ただ、この2人がいなかったとしても、別の人が現れるだけ。
そう思わせるだけの自己破壊的な “何か” が彼女には会った。
結局、エイミー・ワインハウスを殺してしまったのは他者ではなく、自分自身なのかもしれない。

生き急ぐな。貴重な存在だ。
生き方は人生から学べる。
もし長く生きられれば。

敬愛していたトニー・ベネットと共演した際、彼に諫められても、彼女の心には響かなかった。
あとはもう「いつ終わるか?」という状態で、それは彼女が27歳の時に訪れた。
同じく若くして亡くなったブライアン・ジョーンズ、ジミ・ヘンドリックス、ジャニス・ジョプリン、ジム・モリソンと同じ、27歳の時に。

 

amy1