ほえる犬は噛まない

原題 플란다스의 개/Barking Dogs Never Bite
製作年 2000
製作国 韓国
監督 ポン・ジュノ
脚本 ポン・ジュノ、 ソン・テウン、 ソン・ジホ
音楽 趙成禹
出演 ペ・ドゥナ、 イ・ソンジェ、 キム・ホジョン、 ピョン・ヒボン、 キム・レハ、 コ・スヒ、 キム・ジング

ポン・ジュノ監督の初長編作!

社会の中に “悪” はどのように潜んでいるのか?
悪意なき “悪”、良心の呵責に苦しみつつ手を染める “悪”、皆やっているから良いと考える利己的な “悪”。
社会の様々なところで、様々な種類の “悪” が存在している。

大学教授を目指す人文系の研究職を主人公に持ってくる時点で視点の高さを感じます。
結婚したい男の職業では坑員や農家よりも順位が低い “底辺のエリート”。
教授になれなければ一生低収入という、潰しの効かない 1か0 の世界。
しかも妊娠中で働く妻がいるとなれば、当然尻に敷かれ、毎日100個のクルミを割って罪滅ぼしをしなければならない。
どの国でも見られる社会構造の犠牲者であり、「頑張っても報われない人々」の代表かもしれません。

 

山でのんびり昼寝でもしたい

冒頭で主人公はこう呟く。
でもラストで山に登るのは、もう一人の主人公の女性。
彼は犬を殺して静寂を保ち、賄賂を使って教授職を得たので、命がけで善行を積んだ彼女と同じ道は歩めない。
でも結果的に社会的地位を得るのは男性で、それこそがこの映画が描きたいアイロニーです。

 

犬は私より美味しいものを食べるんだ

管理人のおじいさんは、そう言って違反者の飼い犬を食べます。
韓国の食文化なのでそれほど残酷な描写ではなく、食べるのが「飼い犬か?食用か?」という違いだけです。(結果的に飼い犬なので残酷なんですが…)
「管理人という職業より飼い犬の方が幸せ」というのは事実かも分かりませんが、人の犬を食べるだけの正当な理屈ではありません。
それでもポン・ジュノ監督は管理人と浮浪者を単なる悪役とせず、映画に社会的な意味を与え、”ボイラー・キム” の作り話も含めて軍事独裁後の韓国が歩んだ自由化と資本主義の負の側面を差し込みます。

赤い服を着て犬を殺した主人公の男性は、今度は主人公の女性と同じ黄色いカッパを着て自分の犬を探します。
立場と都合によって主義主張がコロッと変わりますが、心根が善良な女性の分厚いパーカーと違い、男性が着るのはヨレヨレで破れそうな安い雨ガッパに過ぎません。
世の中には悪事に手を染めつつ体裁を取り繕った偽の “善” が横行していることの表れで、そんな男性が将来的に得る多くの収入に対し、善行を働いた女性は「干し大根」しか与えられず、職を含めて多くを失います。

ポン・ジュノ監督は漫画家になりたかった時期があるそうで、この映画も非常に「漫画的」な描写が多く見られます。(漫画の絵にしたら面白いだろうなというシーンが多々見られる)
一方で、漫画的コメディと思いきや根底にはしっかりしたテーマがあり、それを上手に脚本に盛り込んで面白く描いて見せる。
低予算で粗削りな見た目ですが、実はハイレベルな要素が詰まった作品だったのかもしれません。

でもラストで “光を当てる” という演出をしたかったからかもしれませんが、善良な役の女性が車のサイドミラーを壊して持っていくのはダメですよ…

 

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