原題 | The Personal History of David Copperfield |
製作年 | 2019 |
製作国 | イギリス・アメリカ |
監督 | アーマンド・イアヌッチ |
脚本 | アーマンド・イアヌッチ、 サイモン・ブラックウェル |
音楽 | クリストファー・ウィリス |
出演 | デーヴ・パテール、 ティルダ・スウィントン、 ヒュー・ローリー、 ピーター・カパルディ、 ベン・ウィショー、 ポール・ホワイトハウス、 アナイリン・バーナード、 デイジー・メイ・クーパー、 モーフィド・クラーク、 ベネディクト・ウォン |
邦題がひどくいけてませんが、チャールズ・ディケンズの名作「デイヴィッド・コパフィールド」を現代風に意訳して映画化した作品です。トータル2000ページ超の大作を2時間に収めているので展開と場面転換は激しいですが、曲者だらけの人物たちを上手に描いて飽きさせません。すべての出演者が自分の役を喜びをもって楽しみながらパワフルに演じ、その感情がこちらにも伝わってくる。何度もどん底に落ちながら、活力や愛に満ち、前向きに人生を切り開く主人公がカラフルに描かれ、とても楽しめます!
監督はスコットランド出身でコメディ作家・脚本家のアーマンド・イヌアッチ。ベテランですがテレビ業界の経験が長く、監督としてはこれが3作目。
僕は自分の物語の主人公になれるか 誰かにその座を奪われるのか ご覧に入れよう
必ず「文豪」という修飾子の付くイギリスの国民的作家チャールズ・ディケンズ(1812~1870)の半自伝的小説『デイヴィッド・コパフィールド』の映画化。ディケンズといえば「デイヴィット・コパーフィールド」だけでなく、「オリバー・ツイスト」「クリスマス・キャロル」「二都物語」「大いなる遺産」など名作が多く、有名な作品は何度も映画化されています。
それら数々の著作の中で、ディケンズ自身が「一番好き」というのが、この「デイヴィット・コパーフィールド」。個性溢れるというより、とにかくキャラの濃い登場人物が次から次へと出てきて楽しませてくれますが、映画ではそれらの登場人物を様々な人種でキャスティングして魅せてくれます。
これは誰も予想できなかった 私の激動の人生です
既に父は亡く、心優しい母と陽気で献身的な乳母ペゴティーと幸せに暮らしていたが、冷酷な男マードストンに言葉巧みに言い寄られて母は再婚。デイヴィッドはマードストンとその姉から迫害され、やがて酒屋に働きに出される。
貧乏人ミコーバーの家で暮らすが、やがてミコーバーも借金で逮捕され、先の見えない苦労を重ねた少年時代。デイヴィッドは大伯母のベッツィ・トロットウッドに助けを求めるためにカンタベリーへ向かった。冒頭に登場するティルダ・ウィンストン扮する大伯母の曲者ぶりからして既に面白い!
名作の映画化は評価が分かれますが、この映画は「単なる時代劇じゃなく、現代の感性で原作とは違う何かを楽しもう」というチャレンジに満ちています。
チャールズ王が処刑されたとき王の迷いが彼の頭に移った。
だから凧で飛ばすのね?
大叔母のトロットウッドも相当の変人ですが、家にはトロットウッドのいとこで更に変人のディックが同居していました。ディックは「処刑されたチャールズ一世が自分の頭の中にいる」と言い、取り憑かれたようにチャールズ1世の思考をメモしています。デイヴィッドはそのメモを1つの凧にして飛ばすことを提案、なぜかデイヴィッドとディックを気に入った管財人の娘アグネスも居つき、4人は平和な日々を過ごします。
やがてデイヴィッドは大学で法律を学びますが、そこで出会った友人たちも変人・曲者だらけ。
演劇の要素と古典的なコメディを練り合わせ、原作への愛情を込めながら、さらに物語は進んでいきます。
この子が話すフリが好き。バカにされるけど。僕も同じことをするよ。そうだよね、リンゴの木さん?
大学の卒業式で出会った風変わりな女の子ドーラに一目ぼれ。ロンドンで事務弁護士として働きながらドーラと過ごし、デイヴィッドはロンドンでも幸せな日々を送ります。しかし、それも束の間、不自由なく暮らしていた大叔母トロットウッドが投資に失敗して破産し、デイヴィッドの元へ転がり込んできます。管財人だったウィックフィールドの会社も学生時代の奇妙で貧しい同級生だったヒープに乗っ取られ、助けることもできません。狭いアパートで大叔母と暮らすデイヴィッド。更に乳母だったペゴティも上京して来たが、初恋の相手エイミーは裕福な同級生ジェームズと駆け落ちして行方不明。ホームレスになっていたミコーバー一家も同居させ、大混雑の中で執筆に励むデイヴィッド。徐々に才能を開花させていきます。
ドーラ役の女優は冒頭に出てきたデイヴィッドの母親役と一緒なんです。映画終盤でドーラが唐突に自らフェードアウトしまうのは悲しいですが、なぜかは原作を読んでみてください。
告白しておこう、これは単なる物語ではない。それ以上のものです。
登場人物たちは実在します。僕の真の願いは彼らの物語を書くことで少しでも強く賢くなること。彼らのように。
皆で協力してヒープの乗っ取りを阻止し、エイミーを見つけ出し、ジェームズと別れさせ、それぞれの家族は元の暮らしに戻っていきます。そして昔から変わらず信頼してくれていたアグネスとの結婚を誓うデイヴィッド。この自伝をベースとした物語はやがて本となり、デイヴィッドは小説家として成功をおさめます。
子供の頃から気になった人・モノをひたすら紙の切れ端にメモし、それを元にストーリを紡ぎ、膨らまし、苦労を経て出来上がった1冊の本。
ラストで子供時代の自分に「心配ない、乗り越えられる。多くの経験を積むよ。」と語りかけるシーンが素晴らしい。多くの苦労・悲劇に直面するけど、明るい未来を信じて進んでいけば、いつか幸せになれる。
主演のデーヴ・パテールの生き生きとした演技が観衆を惹きこみます。実は母国イギリスでの映画全体に対する評判は良くないみたいですが、例えるなら夏目漱石の小説を多人種で配役し、コメディタッチで描いたら日本人にはものすごく違和感ありますよね? でもきっと外国の人は興味深く楽しんで観てくれる。そういうことなんだと思います。(イギリス人からするとデイヴィッドのイメージが合わないだけでなく、アグネスのイメージも小柄で華奢だったのに…だそうです)