原題 | Der Fall Collini / The Collini Case |
製作年 | 2019 |
製作国 | ドイツ |
監督 | マルコ・クロイツパイントナー |
脚本 | クリスティアン・ツバート、 ロバート・ゴルト、 イェンス=フレデリク・オットー |
音楽 | ベン・ルーカス・ボイセン |
出演 | エリアス・ムバレク、 アレクサンドラ・マリア・ララ、 ハイナー・ラウターバッハ、 フランコ・ネロ、 ピア・シュトゥッツェンシュタイン |
刑事事件専門の著名な弁護士、フェルディナント・フォン・シーラッハのベストセラー小説を映画化した社会派サスペンス。2001年のドイツ。新人弁護士のライネンは国選弁護人として殺人事件の被告であるコリーニを担当するが、被害者は経済界の大物であり、偶然にも自身の恩人であるハンス・マイヤーだった。国家をも揺るがしたドイツで本当に起こった驚くべき”法律の落とし穴”とは。戦後ドイツが隠したかった “不都合な真実” を暴いていく。たまたま同じ週に観た「ヒトラーに盗られたうさぎ」と同じく2019年のドイツ映画のヒット作。
いわゆる「法廷もの」です。法廷を舞台にした映画は数多いですが、この映画も過去の法廷ものと比較して遜色のない出来栄え。容疑者の心理を解き明かしながら、並行して検察の主張を崩していく新人弁護士の奮闘が見どころ。被告が何かを隠しているという点は、主演のジェレミー・アイアンズがアカデミー主演男優賞を受賞した「運命の逆転(1990)」に似ているかも。
一味違うところは、コリーニがマイヤーを殺害したことは動かせない事実で、論点が「動機」という点。コリーニが黙秘を続けるため、その動機が途中までまったく分からない。なのでこの映画は非常にゆっくりと始まり、途中までほとんど進展がない。しかし、中盤から急に物語が動き出し、あなたを魅了し始めます。そして「ドイツが抱える負の歴史」に気づかされます。最後まで新たな展開が起き、観る人に非常に多くのことを考えさせるラストでした。タイトルからは分かりませんでしたが、想像以上に社会的・歴史的に深いテーマを取り扱った作品です。
なぜ話してくれないんですか?
弁護士となって最初の仕事がコリーニの国選弁護人だったが、そのときは被害者が養父マイヤーだと知らず、友人から事実を聞かされて愕然とする。当然「養父を殺害した犯人を弁護すべきなのか?」と葛藤するが、「法の裁きを受けるまではどんな人であっても弁護される権利がある」という弁護士本来の信念に基づき、「プロの弁護士として職務を果たす」という決断を下す。しかしコリーニは頑なに黙秘を続け、まったく弁護できる状況にならない。
まったく糸口のつかめない状況の中、凶器の拳銃(ワルサーP38)が証拠品として提示されたとき、ライネンは “何かがおかしい” ことに気づいた。 そこから一気にストーリーが進みだす。
君のためだ 見つけた証拠は表に出すな
コリーニとマイヤーを結びつける遠い昔の出来事にライネンが気づいたとき、マッティンガーはライネンに警告します。たとえその事実を表に出しても傷つくのは遺族だけで、判決の行方には影響しないもう一つの事実があることをマッティンガーは知っているのです。なぜか?なぜ知っているのか? ここがこの映画の大きな見どころ。その「もう一つの事実(驚くべき”法律の落とし穴”)」が彼の口から発せれらたとき、法廷は大きくどよめきます。ライネン、コリーニを含め、傍聴者の皆は「そんなことがあって良いのか」と愕然とします。裁判において法律は絶対で、その法律を相手に、ここから逆転することは果たして可能なのか?
誰のための法律だ?
その最期の訴えが諦めかけたライネンを動かし、また、偶然発見された新たな事実を頼りに最後の賭けに出ます。本当の「正義」とは何か? それはコリーニが果たした正義ではなく、もっと前に果たされるべきではなかったのか? そのカギを握るのが実はマッティンガーだったのです。
これが法治国家と言えますか?この国が当時どうだったか 君のような若造にわかるか?
ライネンはマッティンガーを証言台に立たせ、真正面から問いかけます。マッティンガーは、法に人生を捧げてきた立場と正義を天秤にかけ逡巡する。しかし、最後は過去に責任の一端を担ったという悔恨がマッティンガーを動かします。その言葉に傍聴者が安堵する。あとは最終判決を待つだけ。判決当日、なぜかコリーニが席にいない。彼はきっと初めから決めていたのでしょう。ただ、マッティンガーの発した悔恨の言葉は、コリーニが下した決断の前に彼を数10年の呪縛から解き放ったのです。
ラスト、ジーンと来ますね。余韻を残す、非常に考えられたエンディングでした。
戦争とは、どちらの国にも、そこに暮らす人々にも、何10年にも渡って物理的のみならず精神的にも甚大な被害をもたらします。「ザ・インタープリター」に出てきた「初めは善人だったが、どこかで道を踏み外して非人道的になっていった」という言葉が誰にでも起こりうる状況が戦争なんだと、改めて知ることができました。