ドクトル・ジバゴ

原題 Doctor Zhivago
製作年 1966
製作国 イタリア・アメリカ
監督 デヴィッド・リーン
脚本 ロバート・ボルト
音楽 モーリス・ジャール
出演 オマー・シャリフ、 ジュリー・クリスティ、 ジェラルディン・チャップリン、 トム・コートネイ、 アレック・ギネス、 ロッド・スタイガー、 ラルフ・リチャードソン

デヴィッド・リーン監督が『アラビアのロレンス』の次に制作した作品は『ドクトル・ジバゴ』
「ドクトル・ジバゴ」は、ロシアの詩人ボリス・パステルナークが自己の経験を色濃く反映した小説で、ロシア革命や体制に批判を込めた内容だったため、国内では発禁処分になりました。
しかし、パステルナークの意向に反し、アメリカCIAの協力のもと原稿を入手したイタリアの左翼的な出版社により1957年に出版されてしまう。
翌年、もともと詩人としてノーベル文学賞候補だったことに加えて恐らく政治的な意図もありノーベル賞を受賞しましたが、そのような理由もありロシアの迫害を恐れてパステルナークはノーベル賞を辞退せざるを得なかった。

そんな “曰くつき” の問題作を、イギリス人の名匠デヴィッド・リーンがイタリア・アメリカ資本による制作で映画化したとあって、非常に見方が難しい作品です。
まず原作はロシア革命の混乱期を描いているため、様々な立場の多岐にわたる登場人物が登場するという歴史的背景があり、またパステルナークは小説家ではなく詩人だったので、特に内面的な描写は詩的表現が多く非常に難解な小説です。
そのため原作通りの映画化は困難だし、ロシア革命の描き方も非常にナイーブな問題でした。
それでも本来なら、革命や内戦、世界大戦が立て続けに起こるという激動の時代に、人々の人生がどのような影響を受け、翻弄され、壊されたかを訴えなければならない骨太な作品ですが、
結果的に出来上がったのは、どちらかというと “メロドラマ” 。

ただ、そこは『戦場にかける橋』や『アラビアのロレンス』などの歴史大作を手掛けてきたデヴィッド・リーンなので、この作品も動乱期に翻弄される男女の悲劇的な愛を壮大なスケールと非常に見ごたえのある描写で描き切り、分かる人にしか分からない細部へのこだわりも備えた安定感のある演出が遺憾なく発揮されています。
一方で、実際の革命で起きた混乱と辛苦が原作のもう一つのテーマなのですが、そこは表面的である意味ステレオタイプ(悪意を含んだ単純な表現)な描き方になっています。
西欧から描くにはこれが限界だったのなら、この映画は少し物足りないものに感じるでしょう。
とはいえ、時代に翻弄された一人の男の人生を映画として体感することのできる作品としては、これは素晴らしい力作です。

ちなみに原作小説では、妻のトーニャにはパステルナークの元妻と再婚後の妻が、ラーラにはパステルナークの愛人が反映されています。
実際にパステルナークの愛人は政府によって二度投獄されており、パステルナーク自身も国外脱出できなかった遺恨の念を持ち続けていたため、このストーリーは作り物ではなく、本当に自己の経験であり現実を反映したものでした。

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