原題 | Dreamland |
製作年 | 2019 |
製作国 | アメリカ |
監督 | マイルズ・ジョリス=ペイラフィット |
脚本 | ニコラース・ツヴァルト |
音楽 | パトリック・ヒギンズ |
出演 | マーゴット・ロビー、 フィン・コール、 トラヴィス・フィメル、 ギャレット・ヘドランド、 ダービー・キャンプ |
マーゴット・ロビー主演の犯罪ラブストーリー。1930年代半ばのアメリカ・テキサス州の田舎町を舞台に、指名手配中の女性強盗犯と彼女をかくまう17歳の少年による禁断の恋を描く。
この映画で初めてマーゴット・ロビーを観ましたが、20代にしてアカデミー賞に2度ノミネートされた実績がありながら、自身の制作会社を使って無名の脚本・監督・男優を起用して臨んだだけあって、まずは彼女のパワーに圧倒されました。ブラックリスト(脚本と映画製作のマッチングシステム)から新人ライターが書いた脚本を彼女が惚れ込んで採用、史上最年少の23歳でサンダンス映画祭のUSドラマ・コンペティション部門に選出されたばかりのマイルズ・ジョリス=ペイラフィットを監督に抜擢(なのでこの映画が2作目)、主演もほぼ無名で実質これが2作品目のフィン・コールを抜擢、これを自身が助演して映画化。悪く言えば彼女のための映画ですが、そうでなければ逆にあのラストシーンは作れなかったのでしょう。
ユージーンへの思い出は生き続ける、実父から兄へ、そして兄から私に引き継がれた喪失感を基に私は語る。
最後に兄を見当たのは20年前。1年ぶりに雨が降った。兄が探し物を見つけた “しるし” かもしれない。
映画の冒頭から終わりまで小さな妹が回想する形で進行するのが物語の鍵で、その理由はラストで分かります。そしてストーリーは3つのプロットで構成されており、1つは犯罪を犯したアリソンが逃避行をいざなう表のストーリー、もう1つがユージーンが抱く実父への歪んだ憧れ。最後の1つは… この3本の糸が絡み合い、この物語に少しばかりの深みを与えている。観ている人はこれに気づけたでしょうか?
映画の舞台は砂嵐に見舞われるテキサスの田舎町。人々は貧しく、何にもない町。ユージーンの父はアルコールに溺れ、5歳のときに家族を捨てました。数年後、メキシコから絵葉書が1枚届きますが、それっきり連絡は途絶えます。救いようのない状況の中、当然のごとく17歳の少年は未来を想像できず、夢の国メキシコで父に会うことを夢想し続けます。
後戻りはできないわ
しかし、逃走時に撃たれて傷を負ったアリソンと出会ったとき、彼は自分の運命が変わるわずかな予感がしました。アリソンは逃亡のためにユージーンにすがり、ユージーンもまた自分の運命を変えるためにアリソンと出会った偶然にすがったのです。
銀行強盗を企てた女と、選択肢も何もない街で育った青年の決断に、果たして明るい未来はあるのでしょうか。
俺は怖い
私もよ だから一緒に来て お願い 海で罪を洗い流すの
巨大な砂嵐に襲われた夜、ついに2人は逃避行を決行します。町から逃れ、つかの間の平和なひと時。これからどうなるのか。映画はこの辺りからときおりメキシコの海辺で撮られた写真を芸術的に差し込み、2人の着地点を観ている人のイメージに植え付けていきます。この手法、ちょっと斬新。インディペンデントっぽくて良い。一方、逃亡した2人が警察に捕まる前に見つけ出そうと、継父が2人を追跡しますが、後部座席に妹が隠れていました。なぜ妹が? 初めに書いた通り、この物語には妹が必要なんです。これが3つ目のプロット。妹の視点と感情が非常に重要で、それが最後にじわじわと効いてくるのです。
アリソンは兄の愛に応えたのだろう それに きっと誠実だった
ここから先は物語が一層スピードを増して進んでいきます。
兄とアリソンは夢によって結ばれた 幸せを信じてたはず
現実から逃れたかった兄。その姿を生まれてからずっと傍で見続けてきた妹。この時、妹は心から兄に逃げ切って欲しかったのです。だから叫んだ。その心からの叫びが、どう転んでもおかしくない結末の行く末を決めた。
「そう来たか」と感情を揺さぶられました。個人的には衝撃のラストシーンでした。そして、いつのまにか妹に感情移入していました。
ストーリーは単純、人物や心情の掘り下げも今一つということで世間の評価は高くないですが、未経験者集団でこの空気感と映像美を表現できたことは素晴らしい。そこにマーゴット・ロビーが一花添え、ズシリとくる映画に仕上がっています。配給もインディペンデント系のヴァーティカル・エンターテイメントだし、インディペンデント映画として見れば、見ごたえ十分だと思います。
公式HP:https://dreamland-movie.jp/