| 原題 | 草木人間/Dwelling by the West Lake |
|---|---|
| 製作年 | 2023 |
| 製作国 | 中国 |
| 監督 | グー・シャオガン |
| 脚本 | グオ・シュアン、 グー・シャオガン |
| 音楽 | 梅林 茂 |
| 出演 | ウー・レイ、 ジアン・チンチン、 チェン・ジエンビン、 ワン・ジアジア、 イェン・ナン、 チェン・クン |
杭州近郊に生きる家族3世代の置かれた状況を、絵巻物のように視覚的・時間的視点で捉えた傑作『春江水暖』のグー・シャオガン監督の第2作。
デビュー作の『春江水暖』の英題「Dwelling in the Fuchun Mountains」に対し、こちらは「Dwelling by the West Lake」。
元々3部作の予定だったので、これが第2作になります。
西湖は富春江の脇にある小さな湖で、舞台はどちらも同じ杭州の郊外。
『春江水暖』でも俳優陣に多くの親戚を配したように、今回も身近な出来事をテーマにしており、マルチ商法に騙された親族を参考に描かれる。
そしてもう1つのテーマが「目蓮救母」という仏教の云い伝え。
この言い伝えでは、釈迦の十大弟子の一人にもなった目蓮が餓鬼道に堕ちた母を救うという、お盆のルーツにもなったお話です。
だから、この映画の主人公の名は目蓮(ムーリエン)なんですね。
『春江水暖』でグー・シャオガン監督が見せた美しい風景と計算された構図は今回も健在で、今回もオープニングでトンネル内から空を舞い上がり、茶畑を移動しながら舞い降りて特定の人を映し出す驚愕の映像が見られます。(大勢が茶畑を登っているので失敗できない)
それ以外でも、何度も映し出される静かなショット(明確な意図を持った構図と配置)が冴え渡ります。
ただ、この映画はマルチ商法の熱狂的な洗脳シーンや母が見せる狂気的なシーンが度々あり、静かなシーンと騒がしいシーンが交互に繰り返され、観ている方も “テンションの持っていき方” に困ってしまう。
だからと言って、この映画は失敗作だとか期待外れでは決してありません。
なぜなら一般的な映画のような “ストーリー重視” ではなく、”描きたいテーマを映像とセリフで見せる” というグー・シャオガン監督の哲学を一歩も踏み外していないからでしょう。
蓮は泥に染まらず、泥を養分にして花を咲かせる
仏教の偉い人がベースなので、主人公の目蓮はとても良く出来た人。
一方、母は分かりやすくマルチに騙され、人が変わり、最後は廃人となる。
どちらもステレオタイプなキャラクター設定なので、人間そのものを深堀りできず、実は映画の主人公にはあまり相応しくありません。
もしこの映画でもう一人見たいとすると、Wang Jiajia(王佳佳)演じるマルチ商法の誘導&勧誘役の女性でしょうか。
家庭状況が原因で子供がいじめられ、親子3人揃ってマルチにはまり込み、そこで成り上がる。
ビジネスモデルを狂信し、参加者をパワフルに扇動しつつ、どこかに疑念があり、最後は騙され共犯者となる。
そうなった背景や環境、心理の変化と “その後” を、主人公親子とは別にもっと描いて欲しかった気もします。
母親役の分かりやすいメリハリ演技より繊細だった分、とても気になってしまいました。
グー・シャオガンはしばらく追い続けたい監督なので、3部作の3作目も期待して待っています。
