原題 | 春江水暖/Dwelling in the Fuchun Mountains |
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製作年 | 2019 |
製作国 | 中国 |
監督 | グー・シャオガン |
脚本 | グー・シャオガン |
音楽 | ドウ・ウェイ |
出演 | チエン・ヨウファー、 ワン・フォンジュエン、 ジャン・レンリアン、 ジャン・グオイン、 スン・ジャンジェン、 スン・ジャンウェイ、 ドゥー・ホンジュン、 ポン・ルーチー |
有名な水墨画『富春山居』は数年に渡る製作期間を経て、杭州近郊にある富春山の多様な視覚的・時間的視点を捉えている。
冒頭でその水墨画が紹介されるこの映画もまた、制作に数年をかけ、杭州郊外に住む一家の時間的変化を視覚的に捉えている。
すべての描写が美しく、計算もされているが、何の違和感もなく自然と映画に溶け込み、一つの丁寧な作品に仕上がっている。
これはグー・シャオガン監督のデビュー作にして傑作。
物語は祖母を祝う場面で始まるが、停電によって場は安定しない。
そして祖母は、その場で倒れてしまう。
それは変わりゆく中国における過去の終幕と、新しい時代が訪れていることを告げる。
様々な経験をしてきた祖母は、子と孫 両方の味方であり、この家族では道徳特的な権威だ。
しかし、現代において老人は社会に漂流する世代となっている。
親世代は貧しい時代に生まれ、必死に働き、苦労を重ねてきた。
せっかく築いた生活基盤も、再開発と物価高の波に飲み込まれる。
そして、一人っ子政策だったので必然的に子供は1人。
だから親は子供に期待するし、依存もしてしまう。
娘にも金銭や住宅を持っている男性と結婚して欲しい。
貧しい時代を経験しているため、基本的に物質主義だ。
子世代は比較的安定した時代に生まれ、留学までさせてもらっている。
不平や不満の多い親世代の空虚な家庭環境で育っているため、自身や将来の家庭の幸福を第一に考える。
グーシーの恋人であるジャンが登場する際の言葉が、そのすべてを物語っている。
大変な時代に育ったから安心感がない
だから子供の人生設計をしたがる
自分のそばで従順でいて欲しいんだ
でも親の心子知らずというだろう
毎日が喧嘩だ 子供は親の飾りじゃない
親の世代は苦労した
多くの親たちが子供のために尽くす
だけど子供に見返りを求めてる高齢になってくると物質的な利害による結婚は虚しいものになり、退屈し、孤独を感じる
子供以外に頼るものがなくなる
矛盾しているんだ
一方で子供に苦労しろと言い
一方で苦労させまいとする
でも子供は自分の人生を送りたい
誰にも干渉されない人生を
映画を通じてメインストーリーは存在しない。
家族それぞれの状況が断片的に、『富春山居』の絵巻物のように綴られてゆく。
我々は絵巻物を鑑賞するように、少しずつ紙を送りながら目の前に現れる情景を眺めて感じ取る。
富春江をゆっくりと横スクロールしながら移動する10分間のワンカットシーンは、正に絵巻物そのものだ。
俳優の多くはグー・シャオガン監督の親戚で、長男夫婦は本当の夫婦だ。
次男夫婦は親戚ではないが、地元の漁師夫婦だそうです。
そして、グーシーとジャンも実際の恋人だそう。
これは3部作の1作目で、これからも親戚を含めた素人の俳優を起用したいと言われていたので、この先どうなるのでしょうか。