| 原題 | Emmanuelle |
|---|---|
| 製作年 | 2024 |
| 製作国 | フランス |
| 監督 | オードレイ・ディヴァン |
| 脚本 | オードレイ・ディヴァン、 レベッカ・ズロトブスキ |
| 音楽 | エフゲニー・ガルペリン、 サーシャ・ガルペリン |
| 出演 | ノエミ・メルラン、 ウィル・シャープ、 ジェイミー・キャンベル・バウアー、 チャチャ・ホアン、 アンソニー・ウォン、 ナオミ・ワッツ |
2022年にノーベル文学賞を受賞したアニー・エルノーの自伝『あのこと』でヴェネチア国際映画祭 金獅子賞を受賞したオードレイ・ディヴァン監督。
次作に選んだのは1974年作『エマニエル夫人』の現代版リメイク。
『あのこと』は女性が受ける “制約” について描いていたが、1974年のオリジナル版は女性の “解放” を描いた作品なので、真逆のテーマです。
ちなみに原作は16歳でフランス外交官と結婚したタイ人マラヤット・ビビッド(ペンネーム:エマニュエル・アルサン)の自伝的小説。
映画「エマニエル夫人」で触れられているように、実生活でも夫妻揃ってバンコクにスワッピング・クラブを作り上げたという伝説の人です。
それを2020年代に置き換えるとどうなるのか?
今さら女性における性の解放を描いても時代遅れなので、いったいどう再構築するのか?
そこがオードレイ・ディヴァンに課された課題でした。
主人公エマニュエルは外交官夫人から高級ホテルの視察者となり、舞台はタイから香港に変わります。
発展途上で自然で開放的だった環境は、高級ホテルという人工的で虚飾に満ちた閉鎖的な環境へと変わり、性へのとまどいと喜びに満ちた表情は、どこか満ち足りない表情へと変わります。
これが50年における変化なのでしょうか。
オリジナルはプライベートにおける性的な未知への冒険でしたが、今回の性的体験はビジネスにおける知的探求のように必然性を持って行われる。
まだ見ぬ世界と好奇心をに溢れていた人生は、まるですべてを知り尽くし、生きる情熱を失ったかのようだ。
冒頭でエマニュエルは見知らぬ男をマイル・ハイ・クラブ※へと誘(いざな)うが、そこに新たな発見や喜びは見られない。
※ マイル・ハイ・クラブが何かは調べてみてください
ケイ・シノハラなる日本人が出てくるが、彼はエマニュエルに輪をかけて無感情で、性的にも冷め切っている。
もはや性行為すら必要なく、見せつけられても冷淡に観察するだけだ。
恐らく2074年の『エマニュエル』からタイムマシーンで送り込まれたのだろう。
だから神出鬼没で、ホテルの部屋で寝る必要もなく、風呂水フェチのために浴槽に浸かるだけで良い。
設計しているダムとは、人間の欲望を堰き止めるダムなのかもしれない。
というように、この映画は50年前の『エマニュエル』を現代的に再構築するばかりか、50年後の『エマニュエル』まで持ち出して、すべてを終わらせてしまったようです。
50年後にもう一度映画が作られるなら現実ではなくバーチャル世界になっているだろうから、その時はもう一度 “性の解放” が見られるかもしれませんね。
