Flow

原題 Flow
製作年 2024
製作国 ラトビア・フランス・ベルギー
監督 ギンツ・ジルバロディス
脚本 ギンツ・ジルバロディス、 マティス・カジャ
音楽 ギンツ・ジルバロディス、 リハルド・ザイプペ
出演

2024年アカデミー賞の「長編アニメ映画賞」受賞作。
製作費120億円のドリームワークス『野生の島のロズ』を押しのけ、ラトビア発の製作費6億のセリフ無しアニメが、とんでもないジャイアントキリングを起こしました。
でもそれだけの価値がある、アニメーション映画において特別な存在であることは間違いありません。

この映画は2019年にジルバロディス監督が独力で作り上げた『Away』の世界を再構築し、大幅にレベルアップさせたもの。
『Away』もセリフ無し、異世界、サバイバル、魅力的な動物、ロールプレイング的な世界を描いていました。
世界観と芸術性と描写力とアイデアがあれば大作にも勝てると証明し、言葉を超えた “イメージの持つ力強さ” を改めて教えてくれます。

登場人物は動物のみで、擬人化されておらず、動物のそのものとして描かれている。
そして動物の鳴き声のみで、セリフも字幕も無し。
画質も音楽も映画というよりロールプレイングゲームのよう。
でも動物と自然の描写はとても美しく、題名のように、観客は思考を働かせず流れに身を任せて観ているだけで良い。
最近はテンポが速かったり、詰め込み過ぎだったり、難しい映画が多いので、このような映画体験はとても貴重です。

この洪水はなぜ起きたのでしょうか?
ジルバロディス監督によるとあまり深い意味は無く、多くの動物が怖がる状況を作り出すためで、学生時代に水への恐怖を克服する猫を描いた短編映画『AQUA』を制作したことがあり、そのアイデアを再び取り上げたからだそうです。
とはいえ、やはり我々は「ノアの箱舟」をイメージする。
神はすべての動物に平等に困難を与え、不確実な世界で生き残る唯一の方法は “調和” なのだと。
もしかしたら、映画の中の世界では猫は神の化身だったのかもしれません。
だから巨大な像が造られていた。
その猫ですら、他の動物たちを導くために苦難を与えられたという見方もできます。

面白いのは、犬・サル・鳥ともに同種族が集まると全体の調和を乱し、異種族がお互いを受け入れている状態だとバランスが取れています。
これは意図的な描写でしょう。
また、動物たちの動きや習性が細かく再現され、理性ではなく本能で行動してしまう姿を何度も映し出す。
犬が舵を操作したがったり、猫がキツネザルの尻尾で遊んだり、動物本来の習性によって相手を不快にさせていますが、それでも何とか調和を保ちます。
同種族でいると自分の行動にいつまでも気づかないが、異種族だと違いが明確な分、自分の行動に気づくことも出来る。
正しい行いをすること、生き残るために、必ずしも自分の仲間と共にいる必要はない。
身をもって猫を助ける姿勢を示したヘビクイワシは、だから天に召されたんだと思う。

異形のクジラは何だったのか?
クジラだけ自然の姿ではないので、あれは “神” のような存在なのでしょう。
助け合う心を持っている動物を助け、「協力してちゃんと生き残れたね。これで大丈夫。」と見定めた後で、役目を終えて息を引き取る。

映画は水たまりに姿を映すシーンで始まり、また水たまりのシーンで終わる。(↓下の画像で逆さまの画像2つ)
初めは猫1匹だったが、最後は犬・猫・サル・カピバラの4匹になっている。
意図をもって描かれたシーンなので、それが本当に伝えたかったことなのでしょう。

『野生の島のロズ』が饒舌で内容の濃い小説だとしたら、『Flow』は多くを語らない “詩” かもしれない。
人は素晴らしい詩に心を打たれ、小説以上の価値を見出すこともある。

 

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