ジュリエッタ

原題 Julieta
製作年 2016
製作国 スペイン
監督 ペドロ・アルモドバル
脚本 ペドロ・アルモドバル
音楽 アルベルト・イグレシアス
出演 エマ・スアレス、 アドリアーナ・ウガルテ、 ダニエル・グラオ、 インマ・クエスタ、 ミチェレ・ジェネール、 ダリオ・グランディネッティ、 ロッシ・デ・パルマ、 スシ・サンチェス

オール・アバウト・マイ・マザー』『ボルベール 帰郷』などで描いてきた “母” の物語を、今回もアルモドバル監督が得意とする “サスペンス風人間ドラマ” で描いてみせました。
今回はいつものアルモドバル作品のように歌わず・踊らず・演奏せず、劇中劇もなく、他の映画のシーンもなく、本当にオーソドックスな作りです。
それだけシンプルなのに、圧倒的に美しく、華美さは無いのにすべてのカットが贅沢で、その映像はもはや芸術です。
ここまで質の高い脚本と映像で人間ドラマを描き続ける映画監督は、他にいないのではないでしょうか。

映画はいつも通り現在で始まり、過去を巡る旅が展開され、現在へと戻ってくる。
でも今回は現在と過去は往復せず、巻き戻した状態から時系列でメインストーリーが展開される。
主人公は娘が行方不明で、長い間、音信不通のようだ。
その謎が長い時間を掛けて描かれ、事件は起きるものの、霧は晴れず謎は深まるばかり。
敢えてボカしてはっきり描かない “曖昧さ” も、アルモドバル監督の映画ならではです。
“母が過ちを犯したか?” といえば答えは「No」だし、不貞も働いていない。
ただ、”親としての責任を果たしたか?” と言えば、ショックと鬱病の影響もあって「Yes」とは答えきれない。
だからと言って “突然娘から絶縁されるほどか?” と言えば、「No」だと思うが親子の関係なので他人は何とも言えない。
つまりこれは「本質的には親子にしか分からない問題」であり、親子の問題と言えばアルモドバル監督が何度も描いてきたテーマなのです。

一方、これもはっきりと描かれてはいませんが、親子関係とは別に “一心同体だった” と例えている親友をも突然拒絶しているところを見ると、やはり “新興宗教” と “洗脳” という疑いが強くなる。
これまでアルモドバル作品で宗教的なテーマは無かったのでスルーしがちですが、サスペンスの材料以上の意図で、可能性としてその恐怖と悪夢を差し込んでいる気がします。
その鎖を断ち切ったのは、やはり親子にまつわる悲劇であり、その悲劇によって娘から母への共感と悔恨が呼び起こされる。
冒頭からラストまで、紛れもないアルモドバル監督の映画なのです。

julieta1