| 原題 | La flor de mi secreto |
|---|---|
| 製作年 | 1995 |
| 製作国 | スペイン・フランス |
| 監督 | ペドロ・アルモドバル |
| 脚本 | ペドロ・アルモドバル |
| 音楽 | アルベルト・イグレシアス |
| 出演 | マリサ・パレデス、 フアン・エチャノヴェ、 ロッシ・デ・パルマ、 カルメン・アリアス、 ホアキン・コルテス、 イマノル・アリアス |
これは愛と戦争の映画ですか?
いいえ、愛を戦争で描いた映画です。
人間観察を得意とし、人間を中心に描いてきたアルモドバル監督が、社会性が薄いという批判に対して譲歩したのが主人公の夫パコという存在。
パコは家庭内の戦争を放棄し、人道支援という名の下で海外派兵に赴く。
アルモドバル監督はそれを肯定も否定もせず、”軍が守るべきものの前に、人として守るべきものがあるよね” と言っているようです。
そして、下心ありありだがメンターでもある編集長アンヘルは「あの日を決して忘れないだろう。ドイツ軍がパリを占領した日だ。ドイツ軍は灰色を着て、お前は青を着ていた」という、『カサブランカ』のセリフを引用するが、批判としては少し弱い。
そもそもアルモドバル監督に社会性を求めるのが筋違いで、彼はこれからも女性を中心とした人間を描き続ければ良いのです。
社会的内容を描いた映画は、2021年の『パラレル・マザーズ』まで待たなければなりません。
この作品は、後の『オール・アバウト・マイ・マザー』や『ボルベール 帰郷』へと繋がる物語です。
だから冒頭で『オール・アバウト・マイ・マザー』とまったく同じ臓器移植の話が出てくるし、アマンダ・グリス名義で書く小説の内容が『ボルベール 帰郷』と同じなのです。
主人公パコは、アマンダ・グリスという別のアイデンティティを持ち、更にアマンダ・グリスが書く小説の中で別アイデンティティを作り出す。
そして最終的にアンヘルをゴーストライターにすることで、アマンダ・グリスはアイデンティティを移管する。
この “入れ子構造” は劇中劇を多用するアルモドバル監督が得意とする手法です。
この映画を通じてアルモドバル監督も自らのアイデンティティを再確認し、恋愛コメディからブラックなサスペンスへ作風を変えるきっかけを探しているのかもしれません。
そういう意味においては、アルモドバル監督の創作世界を構成する様々な要素を反映しているにも関わらずほとんど注目されていないこの作品は、彼の典型的な特徴を多く残しつつ、独特の手法でキャリアにおける決定的な転換点を形作っており、最もメタフィクション的な作品とも言えます。
観客はこの作品を通じ、アルモドバル監督の世界観を構成する比喩を明示的あるいは暗示的に巡り巡って体験できる。
そしてそれは、この映画の作品名となって表れています。
