オークション 盗まれたエゴン・シーレ

原題 Le tableau vole
製作年 2023
製作国 フランス
監督 パスカル・ボニゼール
脚本 パスカル・ボニゼール
音楽 アレクセイ・アイギ
出演 アレックス・ルッツ、 レア・ドリュッケール、 ノラ・ハムザウィ、 ルイーズ・シュビヨット、 アルカディ・ラデフ、 アラン・シャンフォール

監督のパスカル・ボニゼールは「カイエ・デュ・シネマ」のコラムニストであり、アンドレ・テシネやジャック・リヴェットの多くの作品で脚本を担当するなど、主に批評家・脚本家として活躍してきた方です。
そのせいか、この映画も “アート界の駆け引き” というストーリー以上に、非常に面白い人物像と会話劇で出来上がっています。
一見重要でないと思える “掛け合い” を多用し、それが登場人物たちのキャラクターを豊かに彩っていく。
皆、一癖あって普通でないが、実は気さくで悪い人ではない。
そんな奥行きのある登場人物たちを、演技で見事に表現してしまう役者たちがまた素晴らしい。

インターンの女性をなぜ虚言癖にしたのでしょうか?
普通の映画なら、”重要な場面で役に立つ聡明な女性” として描けば良く、それはとても簡単です。
なのにこの映画では途中から “謎の女性” となり、意味を持たせることもなく、メインストーリーとほとんど関係の無いサブストーリーが幾つも登場する。
ボニゼール監督によると、「彼女には独自の人生を持たせたい」からだそうです。
脚本家としてのこだわりでしょうか。

そしてアート界というブルジョワ階級と、絵の発見者というプロレタリア階級をうまく対比させた上で、どちらも傷つかないよう十分に配慮しています。
プロレタリア階級にとって絵画は何の意味も持たないが、ブルジョワ階級にとってはいかなる手段と犠牲を払ってでも絵画を取引しなければならない。
そんな大金と欲にまみれる世界において、とても道徳的なエンディングが用意されている。
そのバランスを取る上で、マルタン青年の役と演技は非常に重要だったと言えるでしょう。
ドラマティックな展開を控え目な形式で描いているのも好感が持てます。

映画サイトの評価は低いですが、個人的には大好きなタイプでとても楽しめる映画でした。

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