ルックバック

英題 Look Back
製作年 2023
製作国 日本
監督 押山清高
脚本 押山清高
音楽 haruka nakamura
出演 河合優実(声)、 吉田美月喜(声)

努力、才能、また努力
才能を決めるのは他人ではなく自分
でも異なる才能同士が認め合えば
もっと早く 遠くへ行ける

ペンや紙を通じて頭の中の抽象的なイメージを現実世界に表現するとき、周囲の風景や雑音は溶けて蒸発し、自分だけの世界に入り込む。
こちらに背を向け机に向かう主人公の姿が繰り返し描かれるように、どんなクリエイターも自分の創作活動に没頭し、心に秘められたビジョンを実現したいという強い思いに駆られたことがあるだろう。
漫画家だけでなく、作家やアーティスト、ミュージシャン、あるいはただ自分が大切にしていることに全力を注ぐ人なら、きっと『Look Back』の冒頭から引き出されるこの感情に共感できるだろう。

これは世の中のクリエイターの孤独や苦難、努力、悲しみを綴った、ミニマルなのに心揺さぶる感動作だ。
自分の才能を疑い、他人の才能に嫉妬し、でも認めた相手から認められることによって心に火が付く。
欠けた部分を補い合って進んできた2人。
でもいずれ道は分かたれる。
芸術に対する愛は変わらずとも、成長と共に方向性が少しずつ変わってくる。

クリエイターが信じられるのは、自分以外に限られた人間しかいない。
才能が欠けていても、何かを信じて努力を続けた者だけが生き残れる。
才能がある者は、別の道でその才能を活かす方法もある。
どちらを選ぶのか?
それは自分で決めること。
そして、その選択を尊重する。

クリエイターは様々な犠牲と向き合い、自分をすり減らしながら戦っている。
これまでに大きなものを失った。
時には自分が下してきた決断に後悔する。
でも前に進むために、失ったものを取り戻すことも出来ない。

過去に置いてきたサインがある。
そのサインがまだ残っていることを確かめ、失ったものを穴埋めする。
そして前に進む。進み続ける。

わずか58分のアニメーション。
余計な視覚情報が満載の実写と異なり、アニメは必要な情報を効率よく届けることができる。
だからこの短時間で、充実したストーリーを的確に伝えられる。
そんなアニメの力も再認識させられる作品でした。

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