あの歌を憶えている

原題 Memory
製作年 2023
製作国 アメリカ・メキシコ
監督 ミシェル・フランコ
脚本 ミシェル・フランコ
撮影 イブ・カペ
出演 ジェシカ・チャステイン、 ピーター・サースガード、 メリット・ウェヴァー、 ブルック・ティンバー、 エルシー・フィッシャー、 ジェシカ・ハーパー

若年性認知症により、実際に過去の記憶が曖昧な男。
アルコール依存症により、過去の記憶が曖昧とされている女。
妹(オリヴィア)の後の証言を見ると、この2人が過去に会っていないという話は本当なのか?
実は高校生の頃、何らかの良い関係があったのではないか?
だから、ソールはシルヴィアの後を追いかけたのでは? と思ってしまう。
そう思わせるほど、この映画は記憶と解釈について大きな疑問を投げかける。

ミシェル・フランコ監督は、他の映画も含めて “受け入れにくい登場人物” を敢えて誇張する傾向がある。
今回、最初は主人公2人がそう描かれるので、それがこの映画の少し見づらいところ。
だけど、”受け入れにくい人物” が徐々に家族へと変わっていく。
この変化のさせ方が上手い。

そして、映画を通じてフランコ監督は我々に突き付ける。
「物事を自分に都合良く解釈していないか?」

また、これはアルツハイマーや依存症の話ではなく、”アイデンティティ” がテーマなのでしょう。
長らくアイデンティティを剥奪されてきた女性と、これからアイデンティティを失っていく男性が、すれ違う人生のわずかな期間に信頼と愛を育む。
一方がアイデンティティを取り戻した時、一方がアイデンティティを失う。
そのすれ違いが分かっているからこそ、観ていて心が苦しくなるのです。

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