原題 | Mesteri Cheng / Master Cheng |
製作年 | 2019 |
製作国 | フィンランド、 イギリス、 中国 |
監督 | ミカ・カウリスマキ |
脚本 | ハンヌ・オラビスト |
音楽 | アンシ・ティカンマキ |
出演 | アンナ=マイヤ・トゥオッコ、 チュー・パック・ホング、 カリ・バーナネン、 ベサ=マッティ・ロイリ |
北欧の村を舞台に綴るハートフルストーリー。フィンランドで恩人を探す上海の料理人チェンと息子。女性主人シルカの食堂で働き始めると、その料理が評判となり、人々を幸せにしていく。兄弟ともに映画監督で、40年近く映画を撮り続けているフィンランドのカウリスマキ兄弟の兄:ミカの作品。(弟はアキ・カウリスマキ)
小さな舞台設定、少ないキャスト、シンプルなストーリー、限られた予算、それでも映画は成り立つんです。そして、こんなに心温まる気分にさせてくれるんです。この映画のレシピのように、大作に飽きた映画好きにはたまらない一品です。原題は「チェン師匠」なので、邦題の方がずっと良い。「チェン師匠」という題名だったら観てないですね、たぶん。
フォントロンを探しています
フィンランドの田舎町を走るバスから降りるチェンとニュニョのシーンで静かに始まります。東洋人がいるはずのない場所で、しかも父子の2人づれ。村にはホテルなどあるはずもなく、あるのは小さな食堂だけ。観る人は皆「なぜ彼らはここに来たのか?」 と不思議に思い、冒頭から自然と映画に引き込まれます。こういう始まり方、大好きです。
その後、彼らは食堂に入り、「フォントロンを探しています」と唐突に尋ねるのが、オーナーのシルカも客の老人たちも皆「?」で、謎の中国人親子をいぶかしそうに見つめます。冒頭10分のこの時点で、観る人はもう心配でたまりません。言葉もまともに通じない片田舎で、2人はこの後どうなるの?
行く当てのない2人は結局シルカの親切心で、空き家に泊めてもらうことになりました。そこで荷解きをすると荷物の中から母親の写真が出てくるので、どうやら母親は亡くなっていたようです。そして別の鞄には、なぜかスパイスの瓶が綺麗に並べられていました。
取り引きしましょ 料理してくれたらフォントロンを探す
翌日、チェンはお礼のために食堂を手伝うことにしました。実はチェンは上海でプロの料理人だったのです。そのことを知ったシルカは、フォントロン捜しを手伝う代わりに食堂を手伝って欲しいと頼む。チェンの作る料理は本格的でとても美味しく、身体にも良い料理ばかり。その評判が広まり店は繁盛し、チェン親子も少しずつ村人と打ち解けていく。
そんなある日、店内で老人2人が新聞を見ながら「アイスホッケー選手のフォルストロムが亡くなったらしいぞ」と会話していると、「フォントロンって言いましたか!」とチェンがやってくる。ここでようやく村人たちも「フォントロン=フォルストロム」だったことが分かる。
息子が悲しまなくなった ここはまるで楽園のようだ
実はフォルストロムはチェンの恩人で、チェンの妻が交通事故で亡くなったショックから酒浸りになり、店が傾いたところを資金的に助けてもらいました。その恩を返すために、もう一度料理を作って食べさせたいという思いから上海の店を畳み、フィンランドまで来ていたのです。フォルストロムが既に亡くなっていることを知って落ち込んだチェンは、ニュニョを連れて中国へ帰ることにする。しかし、シルカは困ります。チェンがふるまう料理で村の人々は幸せになり、何よりシルカも幸せだったから。ニュニョも次第に村の子供たちやシルカに心を開き、仲良くなっていく。そんなチェンとシルカを見かね、村の老人たちはチェンを湖に連れ出して皆の気持ちを伝える。シルカをはじめとする村人たちとの絆や、シルカを母のように慕うニュニョの気持ちによって、チェンも考えを改める。
あんたの料理が希望をくれた
おいしい料理は人を幸せにする
この映画は異なる2つの文化が「食」によって理解を深めていく姿を描くことで、国籍や文化の違いを乗り越えて交流を深めることができるんだということを示したかったんだと思います。一昔前なら、たぶん相手は日本人だったんじゃないかな。今や日本の存在感は薄まり、中国の影響力の大きさを実感する作品でもあります。中国からの団体客が「寿司が欲しい」と言うなど、東アジアの国の違いがまったく分かっていない点はありますが、細かい部分は置いておきましょう。
ちなみにこの2人のベテラン俳優はカウリスマキ作品の常連らしいです。この映画の名脇役ですね。楽しんで演技している雰囲気でした。
そしてもう1つ、ラップランドの美しい大自然も非常に魅力的な映画でした。