ONE LIFE 奇跡が繋いだ6000の命

原題 One Life
製作年 2023
製作国 イギリス
監督 ジェームズ・ホーズ
脚本 ルシンダ・コクソン、 ニック・ドレイク
音楽 フォルカー・ベルテルマン
出演 アンソニー・ホプキンス、 ジョニー・フリン、 レナ・オリン、 ヘレナ・ボナム・カーター、 ロモーラ・ガライ、 アレックス・シャープ、 マルト・ケラー、 ジョナサン・プライス

ドイツのオスカー・シンドラーは、『シンドラーのリスト』で一躍有名になった。
リトアニア領事官だった杉原千畝は “日本のシンドラー” と呼ばれたが、英国にも “イギリスのシンドラー” と呼ばれたニコラス・ウィントンがいた。
まだ史実に出てきていないが、恐らく他の国にも何人かの “シンドラー” がいるのだろう。

初めに伝えておくと、「戦争の悲劇を描いたありふれた映画」だと思って観たら、予想以上に泣ける素晴らしい映画でした。
劇的なシナリオでもなく演出も編集も普通で、映画としては普通の映画ですが、主人公ウィントンが何十年も抱えてきた重荷を思いやると、動くことが出来ないほど心が苦しくなる。
「669人を救った」という想いよりも、多くの救えなかった子供たち、脱出できなかった同僚たち、そして救出した子供たちの “その後どうなったのか?” という想いが彼を苦しめていたはず。
彼のリストには約6000人が記載されていたそうで、そうすると8割以上は救えなかったことになり、それら児童の99%以上が収容所で命を落としたとされている。(出典:wikipedia:ニコラス・ウィントン

この映画では数名の同僚について触れらているが、ウィントンが「これは私のことではない」と言うように、決して彼だけの功績ではなく多くの犠牲のもとに成り立っている。
そして、”救出後の子供たちが里親の下でどう育ったのか” についても、まったく触れらていない。
ウィントン自身はその後 赤十字の活動に身を投じたため、実際にそこまでサポートすることはできなかった。
この映画はウィントン自身にのみスポットライトを当て、恐らく意図的に周辺までは描いていない。
だからこそ、ウィントン以外が強いられた苦難と悲劇が、観ていて一層重く圧し掛かる。
脚本の意図もアンソニー・ホプキンスの演技も、それを分かっているので敢えて感情を抑え込む。
実際にウィントン自身もそうして過ごしてきたのだろう。
それを思うと、本当に心が苦しくなる。

映画では描かれていませんが、ウィントンによって救出された子供たちの中から、政治家、作家、音楽家、映画監督、医学教授、数学者、詩人、宗教家など何名もの著名人が誕生したそうです。
生き永らえただけでも意味はありますが、”立派に育つことができた” という事実もまた、ウィントンだけでなく皆が良かったと思えることでしょう。


この素晴らしい映画の最期にこのような余談は何ですが、ウィントンのスクラップブックを見出したベッツィ・マクスウェルは、チェコ難民からメディア王に上り詰め、死去後に大規模詐欺が発覚したロバート・マクスウェルの妻。
マクスウェル家は少々 “曰く付き” で、末娘ギレーヌはエプスタイン事件で有名なジェフリー・エプスタインの長らくの恋人。
2022年にこの事件の共犯者として、禁錮20年が言い渡されています。

 

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