PERFECT BLUE

原題 PERFECT BLUE
製作年 1998
製作国 日本
監督 今 敏
脚本 村井 さだゆき
音楽 幾見 雅博
出演 岩男 潤子、 松本 梨香、 辻 親八、 大倉 正章

今 敏 監督のデビュー作は、今も色褪せないテーマ/ストーリーを扱っているカルト的な人気作。
まだ “アイドルの消費”“ストーカー”“ネット上でのなりすまし” 問題が一般的ではなかった90年代後半に、いち早くその問題を取り上げた先見性もあり、世界からの評価も押しなべて高い。
そして、 “何度も行き来する現実と非現実”“執着心が行きつく先” という、今 敏 作品に共通するテーマはここから始まる。

非現実の世界が多く描かれるが、本当に描いているのは “生身の女性”、”アイドルの末路”、”芸能界の慣習”、”ファンの弊害”、”性の消費” というリアルな世界。
有名になり切れなかった一人の女性が厳しい芸能界で正常を保ち続けることは、現実でも難しいのかもしれない。
大衆はより過激なものを好み、芸能会は道徳よりも金銭を優先し、芸能事務所は大衆の欲望に生贄を提供する。
それは出演を決めた本人とは関係なく、”搾取” なのだ。
アイドルは純潔を守り、アイドルを辞めれば純潔は最も不要なものとなる。

そして、精神疾患を抱えている熱狂的なファンの影響も、現実で明らかな問題だ。
映画のストーカーは、実態なのか妄想が生み出したものか定かではない。
実態ならそれは被害者の心を蝕み、妄想なら既に心は蝕まれているので、どちらにせよ健康な精神は保てない。

上記のような現実的な問題に具体的に踏み込んでいるからこそ、我々は主人公の “不安” が手に取るように分かる。
感覚がとてもリアルなのだ。
実写でも描けるテーマだが、余計な視覚情報が多い実写よりシンプルに描けるアニメの方が、より描きたいことが伝わってくる。
これほどクオリティが高いアニメであれば、実写よりも感情移入できるのかもしれない。
何よりも、SFでもファンタジーでもコミックの映画化でもなく、心理サスペンス小説をアニメにするという発想が新しい。
それがこの作品が傑作として扱われている理由だと思う。

この映画のもう一つ凄いところは、1つの “現実” に対して複数の “非現実” が絡み合っているところ。
最初はそれが分からない。
主人公の未麻が見ている幻想だけだと思っていたら、ストーカーとは別の精神疾患者ルミが最後に登場する。
ルミの見ている現実交じりの幻想も混ざっていたことが分かり、観客はようやく状況を理解する。

実写だと撮影した大量の映像を切り貼りして編集するので、後からいくらでも構成を変えることができる。
アニメだと “とりあえず撮影” が出来ないので、最初から構成を決めて製作する。
でもこの作品はフラッシュバック・他者の視点・幻想など、実写を後から編集したかのようにそれらが複雑に入り混じる。
すべて計算づくで制作したのだとしたら、どうやって製作前に完成をイメージできるだろうと不思議に思ってしまう。

今 敏が手掛けた大友克洋監督の『MEMORIES』「Ep1.彼女の想いで」でも “現実と非現実” の世界を構築していたが、自らが監督した『PERFECT BLUE』以降の3作品でそのテーマを見事に磨き上げ、アッと驚く世界を我々に提供してくれた恐るべきアニメーターでした。

 

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