シークレット・オブ・モンスター

原題 The Childhood of a Leader
製作年 2015
製作国 イギリス・ハンガリー・フランス
監督 ブラディ・コーベット
脚本 ブラディ・コーベット、 モナ・ファストヴォルド
音楽 スコット・ウォーカー
出演 ベレニス・ベジョ、 リアム・カニンガム、 ステイシー・マーティン、 ロバート・パティンソン、 トム・スウィート、 ヨランド・モロー

評価の難しい傑作『ブルータリスト』を監督したブラディ・コーベットのデビュー作。
ベネチア国際映画祭 最優秀新人監督賞を受賞。

とにかく野心的で、反逆的で、とてつもなく骨太な映画『ブルータリスト』を観て俄然興味を持ち、どんな監督なのか確かめるために、このデビュー作と次作『ポップスター』を観てみることに。
元は俳優で、ミヒャエル・ハネケやグレッグ・アラキ、ラース・フォン・トリアーなど独自の作品を作り上げる監督たちの映画に出演。
そこで得た知見を元に、アメリカ人ながらヨーロッパで監督デビューとなりました。
やはりデビュー作から非常に野心的で尖った映画でしたが、尖った監督のデビュー作にありがちな粗削り感は無く、独特の世界観を見事に作り出しています。

大音量で始まり、終始画面が暗い。

原題は「リーダーの幼少期」。
何のリーダーかは映画のラストで明らかにされる
また、映画は『ブルータリスト』と一緒で、チャプター形式で進む

 ”チャプター形式”
 ”ラストで時が経ち、結果が明らかになる”
 ”史実のように演出する”

といった辺りはデビュー作から一貫しています。
あと、2作目も含めて全作の脚本は奥様のモナ・ファストヴォルドとの共作ですね。

結論から言うと、独裁者たちの戦争を終結させた官僚の家から、また独裁者が生まれるという “皮肉” や “業(ごう)” を描いている。
「歴史は繰り返す」「世界は変わらない」ということでしょうか。
しかし、この少年に対する酷い仕打ちを見ると、数々のトラウマを植え付けていることは簡単に分かる。

 1. クリスマスなのに教会の前でひたすら謝罪させられる。
 2. 透け透けノーブラの美人家庭教師に悶絶させられた後、父親の愛人だと分かる。 
 3. どうも母親も浮気している。
 4. 親代わりだったメイドが自分のせいでクビになる。
 5. 要人達の前で、お祈りの言葉を言えと突然指名される。

暗く淡々と描かれているが、こんな家庭では誰でもトラウマになるよなと。
これで神を信じろというのは、虚飾や欺瞞以外の何ものでもありません。

そして、劇中で繰り返される “ライオンのイソップ童話” にはどういう意味があるのでしょうか?
ライオンは自分でネズミが大衆なのか、それともライオンが将来の自分でネズミが今の自分なのか。
この辺りはハッキリと描かれないので、様々な解釈が可能です。

ラストのチャプターは「私生児」。
そして独裁者=未来の主人公を演じているのは、母の浮気相手チャールズ役(ロバート・パティンソン)の人。
つまり最初から自分は母と浮気相手の子だったという訳で、そういう「”仮面を被った家族” から生み出されるのは暗い未来しかないよ」という示唆や暗示なのかもしれません。
とにかく、この監督は一筋縄ではいかず、誰にも “おもねらず”、”へつらわず”、かなりエッジの効いた作品を作り続けてくれるでしょう。
こういう監督、大好きです!

補足ですが、家庭教師役のステイシー・マーティンは『ポップスター』では姉役、そして『ブルータリスト』では富豪の娘と全作に出演しています。

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