エレファント・マン

原題 The Elephant Man
製作年 1980
製作国 アメリカ・イギリス
監督 デヴィッド・リンチ
脚本 クリストファー・デヴォア、 エリック・バーグレン、 デヴィッド・リンチ
音楽 ジョン・モリス
出演 ジョン・ハート、 アンソニー・ホプキンス、 ジョン・ギールグッド、 アン・バンクロフト、 ウェンディ・ヒラー、 デクスター・フレッチャー

『イレイザーヘッド』で陰鬱な内面世界を展開したデイヴィッド・リンチ監督が、2作目では予想外のヒューマニズムに目覚める。
次にこのような映画が観られるのは19年後の『ストレイト・ストーリー』まで待たねばならず、これら2作品はリンチ監督にとって “異色” とされていますが、2作目で『エレファント・マン』を撮っていることを考えると、どちらもリンチ監督を象徴する映画なのでしょう。

これはとても映画的なストーリーに見えますが、意外にも “実話” です。
19世紀イギリスに実在したジョセフ・メリックという重度の奇形を持った青年を描いており、映画で描かれた境遇は彼が実際に辿った実経験に基づいています。
そしてサイレント映画を思わせる美しいモノクロの映像に、人間の心に潜む不気味さや恐怖、儚い夢など様々な表現が詰まっている。
細かな部分まで抜かりの無い、芸術的なリンチ監督の手腕です。

描かれるのは “人間の闇の部分” であり、また、“醜さは内面から生じるものではない” という真理です。
身体的な問題や知能の問題がない “普通の人” は敬意と礼儀をもって接してもらえるのに、なぜ人は見た目で判断するのか。
非常に分かりやすい演出になっているので、この映画を観れば誰もが感じることでしょう。

 

思ってもみませんでした。
鬼が地下牢から出るなんてことは。

メリックは善良な人間です。
彼の優しさや素朴さは、もはや神秘的です。
彼が社交界の有名人や変わり者によって高貴なペットのように扱われる時も皮肉的に描かず、彼が純粋に喜びを感じている様を映し出す。
彼の感謝は心からのものだ。
「メリックの病状を利用している」というトリーヴスの “良心の呵責” ですら気にしていない。
彼はトリーヴスが自分を苦悩から安らぎへ導いてくれたことを知っている。
リンチ監督は現代的な映画のようにわざとらしく感傷的に描くことを敢えて避け、上流階級の偽善とメリックの善良さを淡々と表現しています。

 

僕は象じゃない
動物でもない
僕は人間なんだ!

これこそリンチ監督の哲学で、偽善と善良さを淡々と描いてきたのは映画全体を通して “影に潜む怪物” を壮大に暴露するためです。
この作品に衝撃を受け、恐怖心を駆り立てるのは、私たちがいつどこにいても人間の中にこの性質を見ているからです。
私たちは自分たちより弱い人々を利用し、見た目が違うだけで嘲笑する。
この映画で示されるメッセージは恐ろしく、私たちが本当に恐れるべきものは “私たちにとって最もありふれた、ありきたりなもの” だということです。

 

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