イングリッシュ・ペイシェント

原題 The English Patient
製作年 1996
製作国 アメリカ
監督 アンソニー・ミンゲラ
脚本 アンソニー・ミンゲラ
音楽 ガブリエル・ヤレド
出演 レイフ・ファインズ、 クリスティン・スコット・トーマス、 ジュリエット・ビノシュ、 ウィレム・デフォー、 ナヴィーン・アンドリュースコリン・ファース、 ジュリアン・ワダム、 ユルゲン・プロホノフ

私を風の宮殿に連れ出してね
唯一の望みなの
あなたや友達とそこを歩くのが
地図のない大地を

アカデミー賞9部門に輝く名作。
冒頭で起きる飛行機事故が、すべての始まりであり、また終わりでもある。
自らをイギリス人と名乗る記憶喪失の男にまつわる幾重にも重なる謎。
その過去を紐解く中で解き明かされる深い愛の傷痕。
未来を生きる女性看護師と、過去を生きた “イギリス人患者(イングリッシュ・ペイシェント)” の束の間の邂逅。
その患者はいったい何者で、どこから来たのか?
死期が迫る中、ヘロドトスを記した1冊の本によって、明かされるはずのなかった過去と記憶が徐々に蘇る。

 

新しい恋人同士は優しく気遣う
だがすべてを打ち砕く
心は火の器官だからだ

セリフは魅惑的で、映画が映し出す風景、建物、人物すべてが自然で美しい。
レイフ・ファインズ、クリスティン・スコット・トーマス、ジュリエット・ビノシュは、演技では感情を抑えつつ、内側に秘める感情は観る人に力強く届ける。
複雑な原作を観やすく展開したバランスの良い脚本と、それを見事に映像化したアンソニー・ミンゲラ監督は素晴らしい。
そしてプロデューサーのソウル・ゼインツは手掛けた映画は7作品ながら、本作を含め3作品(『カッコーの巣の上で 』『アマデウス』)でアカデミー作品賞を受賞するという慧眼ぶり。(他にも『モスキート・コースト 』や『存在の耐えられない軽さ 』など)

様々な要素が組み合わさって出来た、完成度の非常に高い作品でした。

ところで、ハナが恋するシーク教徒のインド人キップは同僚ハーディの事故死が原因でハナの下を離れて帰国するように描かれていますが、原作では広島への原爆投下がきっかけでした。
原爆投下を西洋文明と覇権主義の象徴として捉え、もはや付き従う限界を超えたと感じ、西洋に背を向け自国へと戻るのです。
また映画では、ラーズローがスパイであることを知りマドックスが自死したと描いていますが、原作はそうではありません。
マドックスは帰国後、教会で戦争を賛美する説教を聞き、絶望してその場で命を絶ちます。
キリスト教が戦争を正当化することは自身の信念に反する行為であり、神への絶望と抗議のために命を絶ったのです。

そのように、原作では描かれていた戦争批判がアメリカ資本のこの映画ではごっそりと抜け落ちています。
その点だけ差し引いて評価するのが良いかもしれません。

 

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補足ですが、ジュリエット・ビノシュが蝋燭を使い、高い場所の絵画を照らしながら見る描写は、1991年の『ポンヌフの恋人』でも見られます。
どちらも補足的に描かれる出来事ですが、不安の中で一瞬の安らぎを感じられる美しいシーンでした。
(左が『ポンヌフの恋人』、右が『イングリッシュ・ペイシェント』)

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