ハート・ロッカー

原題 The Hurt Locker
製作年 2008
製作国 アメリカ
監督 キャスリン・ビグロー
脚本 マーク・ボール
音楽 マルコ・ベルトラミ、 バック・サンダース
出演 ジェレミー・レナー、 アンソニー・マッキー、 ブライアン・ジェラティ、 ガイ・ピアース、 クリスチャン・カマルゴ、 レイフ・ファインズ、 デヴィッド・モース

前3作で大きな損失を出したキャスリン・ビグロー監督が低予算(とはいえ1500万ドル!)で作らざるを得なかった作品が、まさかのアカデミー作品賞を含む6部門を受賞。
ビグロー監督自身も、前夫のジェームズ・キャメロンとの争いを制して監督賞を受賞。
細かな部分は現実に基づいておらず不正確だらけ、イラク市民の描き方もおかしい、描く対象も絞り込みすぎで説明不足、という欠点だらけの作品が、なぜこれほどまでに評価されたのでしょうか?

キャスリン・ビグロー監督は、映画監督になる前は芸術活動をしていました。
そのせいもあって彼女の初期の作品はストーリー的にはツッコミどころがありつつ、『ブルースチール』や『ハートブルー』など、ストーリーを上回る “美しい画” で惹きつけることができる監督でした。
(失敗作のように)多額の製作費で大作を作るより、少ない製作費で “こだわりの描写” をする方が性に合っているし、理に適っていたんだと思います。
そして出来上がったのが、『ハート・ロッカー』で見せた “高純度の緊張体験” であり、結果として主人公の心理状況や精神状況に観客が強い理解や共感を呼ぶ作品に仕上がりました。
手持ちカメラを用いて登場人物たちの現場を周りながら撮ることで、不正確さよりも臨場感が際立つ。これは説明不要の体験型の映画なのです。
そして、「爆弾処理服で灼熱の路上を歩く姿」、「遠景に潜む視線」、「タクシーや人間爆弾の男」「砂漠での長距離戦」といった、現実にはあり得ないが極端に強いイメージを植え付ける画を差し込んでくる。この “現実よりもイメージで訴えるアーティスト的手法” が、批評家たちにも非常に受けが良かったのです。
また、通常の戦争映画は戦闘や爆撃という派手なシーンで観客を魅了しますが、この映画は逆に「爆発しないでくれ」と観客が自然に祈るような手法を取り入れて映画を支配する。
その “新しい観せ方” によって、アカデミー作品賞まで昇り詰めたのでしょう。

 

歳をとると好きだったものも
それほど特別じゃなくなる
そして大好きだったものを忘れていく

イラク派兵における兵士のPTSD発症率は10~20%という調査結果がありますが、ジェームズ軍曹はPTSDだったのでしょうか?中毒だったのでしょうか?
描かれ方からすると、ほぼ確実に中毒(依存症)です。
では何の中毒だったのか?
それは「命懸けのスリル:使命感=8:2」くらいの割合でしょう。
ただ、”使命感” もスリルを味わう自分を正当化するために装っているだけなので、実際は10:0かもしれません。
ではなぜ命を懸けたがるのか?
それは生を実感するための “自己確認” なんだと思います。
家庭生活では生きている実感が湧かず、精神的には死んでいるのかもしれません。
死を目の前にすることで、初めて生を実感できる。

兵士の中には志願して何度も戦場に戻る人が一定数いるのも事実だそうです。

 

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