聖なるイチジクの種

原題 The Seed of the Sacred Fig
製作年 2024
製作国 ドイツ・フランス・イラン
監督 モハマド・ラスロフ
脚本 モハマド・ラスロフ
撮影 プーヤン・アガババイ
出演 ミシャク・ザラ、 ソヘイラ・ゴレスターニ、 マフサ・ロスタミ、 セターレ・マレキ、 ニウシャ・アフシ

冒頭で題名の意味が示される。
イチジクは宿主となる樹木で発芽し、成長する過程でやがて宿主を絞め殺す。
それは1979年にホメイニ指揮のもとシャー(皇帝)を倒したイラン革命が、厳しい弾圧によってイラン国民を窒息させていることの例えであり、国家と宗教に仕えてきた善良だった男が体制の思想/方針によって追い詰められ、家族を絞め殺そうとする様子を意味しています。

主人公が仕える法は人を正しく裁けず、協力者である警察関係者も間違った犯人を示唆する。
社会や人権を適切に保つはずの法や、法に基づいて取り締まる警察が正しく運営されていない状態では、国全体が必ず腐敗していく。
この映画では “家族” という狭い対象に絞りつつ、そのことを直接的に描いている。
だから監督は弾圧の対象となり、製作後すぐに国外逃亡しなければなりませんでした。

後半は貧相なスリラーとなってしまいましたが、時間/予算/自由が限られた状況で製作せざるを得ず、致し方なかったのでしょう。
監督を中心とした制作陣の勇気と政治的意図を汲み、カンヌ国際映画祭で審査員特別賞を受賞し、アカデミー賞では国際長編映画賞にノミネートされ、国際的にも高い評価を得ました。

近年のイラン映画は『悪は存在せず』や、『白い牛のバラッド』『熊は、いない』など死刑制度や体制批判を描いた映画が多いですが、アムネスティの情報によると、イランは厳罰的な法制度によって人口当たりの執行数が世界一(2024年は少なくとも972人に執行)という現実があります
※ 中国・北朝鮮・ベトナムなど非公開の国を除く
https://www.amnesty.or.jp/library/report/pdf/statistics_DP_2024.pdf

 

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