トレイン・ドリームズ

原題 Train Dreams
製作年 2025
製作国 アメリカ
監督 クリント・ベントリー
脚本 クリント・ベントリー、 グレッグ・クウェダー
音楽 ブライス・デスナー
出演 ジョエル・エドガートン、 フェリシティ・ジョーンズ、 ナサニエル・アルカン、 ケリー・コンドン、 ウィリアム・H・メイシー、 クリフトン・コリンズ・Jr、 ジョン・ディールポール・シュナイダー

小さな作品ながら、アカデミー賞4部門にノミネート。
まだ4月ですが、既に2026年に観た作品の中でベストです!
Netflixでしか観られないのがもったいなく、もっと多くの人に観てほしい作品です。

監督のクリント・ベントリーは『ジョッキー』で長編デビュー。
この作品も『トレイン・ドリームズ』のように静かな風景の中で、 自らの肉体をも鞭打老いた騎手が、現状を受け入れ人生を振り返る様子を描いています。
映像は本作ほど美麗ではありませんが、計算された構図とショット、光の取り入れ方、語り口に確かな才能を感じました。

また、クリント・ベントリーは、デビュー前から『シンシン SING SING』の監督であるグレッグ・クウェダーとコンビを組んでいます。
ベントリーが監督した『ジョッキー』『トレイン・ドリームズ』、クウェダーが監督した『ザ・ボーダーライン 合衆国国境警備隊』『シンシン SING SING』は、4本とも2人が共同制作及び共同脚本を務めています。
つまりこの2人は『シンシン SING SING』『トレイン・ドリームズ』で2年連続アカデミー作品賞と脚色賞にノミネートされた、才能と未来溢れるコンビなのです。

この作品は名もなき鉄道労働者の一生を、悠久の大自然と共に描いた作品です。
労働者という主人公に反し、まるで神話のように映し出される映像と雰囲気がとても素晴らしい。
寡黙な主人公に代わって物語を語る静かなナレーション、静かで美しいサントラ、そして圧巻の映像が秩序だって組み合わさり、地味な作品を “傑作” とも呼べる領域に押し上げています。
セリフに頼らず、ストーリーに頼らず、心地よく、静かで、時間はゆったり流れ、それでもなお観ている人の感情を揺さぶる人生とドラマがある。

森林という大自然では、時間はゆったりと流れる。
人間など小さな存在で、巨木の寿命に比べれば人の一生なんてわずかな時間かもしれません。
この映画では人間と対比させるように大自然を映し出します。

アメリカの文明は急激に発展し、大都会が幾つも生まれますが、それらを支えているのは名もなき労働者であり、彼らの労働の対価によって成り立っています。
この映画では眩い繁栄を映し出す代わりに、労働者を映し出します。

彼らは鉄道の線路を通すために森林を切り開きます。
数100年の歴史を紡いできた無数の巨木を切り倒し、近代化の象徴である鉄道を通すのです。
その裏では労働者の酷使があり、移民への差別や迫害があり、犯罪者が紛れていたり、大規模な自然破壊があり、実は線路や鉄道は “労働者や自然に対する暴力” によって作られていることが分かります。(まったく主張することなく淡々と描かれますが)
この映画では文明の利器である鉄道と対比させるように、それらの暴力を映し出します。

 

数年経ってもまだ待っていた
何を待っているか分からずに

主人公は多くを語りません。
大きな喪失を抱えていても、多くを語ることなく、哀しみを自らの内に抱えたまま、癒されることなく静かに耐え忍びます。
そんな喪失後に生きる人生と対比させるように、幸せだった時間を映し出します。

そのように、この映画は様々な対比を強調することなく同時に映し出すことで、奥行きを作り出しています。

大自然は美しいですが、ロバートの人生は美しかったか?というと、必ずしもそうではありません。
我々は大きな世界の中で、遥かに小さな存在として生きていくしかないのです。
幸せだった時間も、悲しみに満ちていた時間もあるでしょう。
それでも生きていくしかないのです。

では、なぜこの映画は美しいのか?
それはきっと “善良さを失うことなく生き続けた人生” を描いているからだと思います。
“善良であっても救われない人生” に涙し、それでも “善良さを失わなず生き続ける” 姿に心を打たれたのではないでしょうか。
輝きは無くとも、美しい人間の姿をこの映画に見た気がします。

2026年時点で原作の短編小説は邦訳されていません。
なので、いつか原文の小説にチャレンジしてみたいと思います。

 

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