原題 | Als Hitler das rosa Kaninchen stahl / When Hitler Stole Pink Rabbit |
製作年 | 2019 |
製作国 | ドイツ |
監督 | カロリーヌ・リンク |
脚本 | カロリーヌ・リンク、 アナ・ブリュッゲマン |
音楽 | フォルカー・ベルテルマン |
出演 | リーヴァ・クリマロフスキ、 オリヴァー・マスッチ、 カーラ・ジュリ、 マリヌス・ホーマン |
ドイツ生まれの絵本作家ジュディス・カーの自伝的小説を映画化。ヒトラーの台頭により故郷を離れ、過酷な逃亡生活を余儀なくされたユダヤ人一家の姿を、9歳の少女を通して描く。
スイス・フランス・イギリスと逃避行を続けるうちに言葉や習慣に慣れ、時代や様々な制約に負けず一生懸命に生き逞しく成長していくアンナ。生まれ育った家に帰ることができなくなっても強く生きようとするアンナの感情や逞しい生き方を通して家族の絆を深め、生きる希望を見出していく姿を瑞々しく描いた佳作です。原作は「ヒトラーにぬすまれたももいろうさぎ」。この原作を『名もなきアフリカの地で』で第75回アカデミー賞®外国語映画賞を受賞したカロリーヌ・リンク監督が細やかに描く。
素晴らしい作品でした。リンク監督の作品は「名もなきアフリカの地で」しか見たことありませんでしたが、「ビヨンド・サイレンス」「点子ちゃんとアントン」も見ておけばよかった! いずれも少女の成長物語ですが描き方が本当に丁寧で、人生の一部を共有したような感覚になり、観終わった後に何とも言えない感情に包まれます。
アンナ役の子が素晴らしすぎる!(演じるのは1000人以上の中から見出された新人のリーヴァ・クリマロフスキ) 演技とは思えない、まさに映画の中の主人公そのもの。映画の冒頭、家政婦さんに濡れたズボンを脱がしてもらうためにひっくり返って足を上げたままずっとしゃべっているシーンが演技とは思えないほど自然で、そこからずっと感心しきりでした。
2008年 スイス/チューリッヒ生まれで、原作者のジュディス・カーと同じベルリンのグルーネヴァルト地区の小学校に通っていたという事実も運命的。
明日の朝までさようなら
家政婦のハインピーがいつも「おやすみ」の際に子供たちにかける言葉「明日の朝までさようなら」。アンナはベルリンの家を去る際に、家具やキッチンに声を掛けます。「〇〇さん、さようなら」。でも今回ばかりは次の日の朝に目が覚めても、もう会えないのです。
スイスの山麓からパリに逃げるときも、アンナは「さよなら」を言うのです。「さよなら小石」「さよなら大きな石」「さよならおバカさん」。せっかくできた友達や、アンナに好意を抱いていた男の子ともお別れです。
君の心には光が灯っている 守るんだ その光が消されないように
これからも善を信じよう 最後には善が勝つ
映画のラスト近く、エッフェル塔の上からユリウスおじさんに向けてアンナが風船を飛ばすシーンも感動的。「ベルリンまで行って」と願うアンナに、「行かなくてもいい ユリウスは近くにいる」と父が語りかけるのです。ユリウスおじさんは彼女の心にずっと残り続け、いつまでも励ましてくれていることでしょう。
私はきっと偉くなるわ
だってこんなに苦労しているんだもの
そして、ようやく父が執筆した演劇の脚本がイギリスで認められ、一家は三たび国外へ転居するのです。ベルリンからチューリッヒへと逃げる列車で偉人の本を読みながら、「偉い人はみんな子供の時に苦労しているのね」と言った言葉の通り、大変な苦労を乗り越えながら、一家は再び言葉の通じないロンドンへと旅立っていきます。
家庭内のシーンが多く、家族全員がせわしなく動き回りながらセリフを繋いでいくのですが、その様子が全員自然で違和感なく、深刻な状況の中でも明るさや逞しさを失わず前向きに生きる姿に胸を打たれます。軽やかだが重みのあるセリフに溢れ、演出も撮影も編集も素晴らしく、非常にまとまりのある映画です。また、恐らく大人だけでなく子供にとっても非常に観る価値のある映画でしょう。(できれば字幕で)
ちょうどロシアのウクライナ進行が始まった時期に観たので、戦争によって一般市民が自由を奪われ人生を狂わされていく状況に、なおさら感じ入るものがありました。
公式:https://pinkrabbit.ayapro.ne.jp/