ゼロ・ダーク・サーティ

原題 Zero Dark Thirty
製作年 2012
製作国 アメリカ
監督 キャスリン・ビグロー
脚本 マーク・ボール
音楽 アレクサンドル・デスプラ
出演 ジェシカ・チャステイン、 ジェイソン・クラーク、 カイル・チャンドラー、 ジェニファー・イーリー、 マーク・ストロング、 ジョエル・エドガートン

ハート・ロッカー』で女性初のオスカーに輝いたキャスリン・ビグロー監督が、『ハート・ロッカー』と同じくマーク・ポールの脚本で再び戦争後の痛みを描く。
今回の舞台は9.11の同時多発テロ事件後の世界。
テロを主導したアルカーイダの司令官ウサーマ・ビン・ラーディンを10年に渡り追い続けた諜報活動と、総仕上げとして行われた強襲作戦を描きますが、他には何も描いていません。

諜報活動といえば映画において格好の題材ですが、醍醐味のようなものはまったくありません。
主人公の背景も一切描かれていません。
ラストの方で「高卒でCIAに入り12年」というセリフがありますが、確かにCIAは高卒もリクルートしていますが、このような超重要案件に即配属され、キーパーソンとして上司を怒鳴りつけるほど活躍することはあり得ません。
つまり主人公のマヤは、「10年かけて行われた膨大な諜報活動」自体をモデルとした架空の人物であり、「楽しい生活を投げ打ち、孤独を強いられながら、国家の重要任務に人生を捧げてきた多くの人たち」の象徴なのです。
国家を挙げての復讐劇ですが、高揚感もありません。
少しずつ追い詰め、もう何も情報が得られず、確信を得られない状況で作戦を遂行し、結果的に首謀者を殺害する。
ミッション完了後も淡々と終わります。
だからこれは行為の良し悪しには踏み込まず、娯楽要素もそぎ落とし、ミッションが成功しても礼賛せず、ただ「執念の捜査によって同時多発テロ事件に端を発する国家的復讐を果たした」という事実だけを伝えます。
これは多くの犠牲者を出した大惨事に改めて哀悼の意を表すると共に、「一つの戦いが幕を閉じた」ということなんだと思います。

彼女は優秀だ。

我々もだ。

一方で、この映画は諜報活動の限界も示します。
拷問によって得られた自白を寄せ集めても真実は見えてこず、電子機器を使わず姿も現さないなど最大限の警戒態勢を敷かれると、諜報活動も壁に当たる。
それでも泥臭く足で稼いで執念の捜査を何度も繰り返した結果、「これまでで最も怪しそうな証拠」に辿り着く。
でも何日経っても確たる証拠は得られず、「もう待てない」と一か八かで急襲を仕掛ける。
その根本的な問題と危うさが、この映画を観ていると切実に感じられます。
それでもこの組織(CIA)は、自らを「優秀」と思い込んでいる。
恐らく裏では何度も失敗しているにもかかわらず…

戦争後もPTSDに苦しむ人々に焦点を当てた『ハート・ロッカー』に対し、今回は人ではなく国家的活動に焦点を当てています。
キャスリン・ビグロー監督はデビュー当時から “観客を惹きつける画力” によってストーリー以上のものを作品にもたらすことができる監督であり、2つの作品は両極端の描き方でしたが、共に見ごたえのある仕上がりになりました。

ちなみに題名は作戦が決行された “夜 0:30” を表す軍隊用語だそうです。

 

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