冬の小鳥

原題 여행자/A Brand New Life
製作年 2009
製作国 韓国・フランス
監督 ウニー・ルコント
脚本 ウニー・ルコント
音楽 ジム・セール
出演 キム・セロン、 パク・ドヨン、 コ・アソン、 パク・ミョンシン、 ソル・ギョング、 ムン・ソングン

冒頭で主人公の少女ジニの父親の顔は敢えて写されないが、その後、父親役はソル・ギョングだと分かる。この映画の製作はイ・チャンドン兄弟なので、ジニの父親は『ペパーミント・キャンディ』で家庭と人生を破綻させたヨンホ(ソル・ギョング)の分身なのかもしれません。この作品は初めての監督を務めたウニー・ルコントの半自伝ですが、至る所にイ・チャンドンの影響が見てとれます。クレジットはされていませんが脚本協力もしていたようですし、韓国側の制作基盤を作り上げる上で撮影協力もしていたでしょうし、何よりカンヌ国際映画祭に出展する際に「Lee Chang-Dong presents」と添えられていたほどです。
ウニー・ルコントはファッション業界で働きながら、25歳の時にオリヴィエ・アサイヤスの映画『パリ・セヴェイユ』に出演したことがあるものの、映画業界の人間ではありません。その後、脚本講座に通いながら40歳頃にこの映画の原型となる脚本を書きましたが、そのタイミングでは映画化に繋がる話はありませんでした。ところが『シークレット・サンシャイン』のフランス公開時に渡仏していたイ・チャンドンがこの脚本を読んで気に入り、彼の強力な後押しで韓国とフランスの共同製作で進められました。そのような経緯から、シンプルなストーリーとはいえ、いきなりウニー・ルコントが映像化したというよりイ・チャンドンが脚本修正や演出に相当関わったと見ています。ではどれだけイ・チャンドンの映画に近いか見てみましょう。

【善悪を単純化しない】
父親は明らかにジニを傷つけます。しかし映画は父を悪と決めつけません。父の行為は許されませんが、父にも貧困/再婚/社会的圧力/無力さがあることが画面から滲んできます。この「加害者を断罪しきらず、かといって免罪もしない」感覚は、まさにイ・チャンドン的です。『シークレット・サンシャイン』や『オアシス』にもある、観客を簡単な倫理的安全地帯に置かない作劇です。

【制度を批判しない】
制度を直接批判するのではなく、制度の中で傷つく人々を撮る点です。孤児院/カトリック/国際養子縁組/戦後韓国社会/家父長制など題材だけ見れば社会告発映画にできますが、本作はそれを主張しません。制度は背景にあり、観客はジニの体験を通じて制度の冷たさを知る。この距離感もイ・チャンドンに近いです。

【押し殺した感情】
イ・チャンドン作品では人物が長く耐えた後、ある瞬間に爆発しますが、その破裂はカタルシスではなく現実が何も変わらないことを露わにします。『冬の小鳥』でも、ジニの拒食、反抗、自らを土に埋める行動、友人との関係の揺れは、どれも “解放” ではありません。子どもが状況を変えるためにできる抵抗の小ささが痛ましいのです。

【偽善的な宗教】
孤児院はカトリック施設で、シスターたちは冷酷な悪人ではなく、むしろ親切です。しかし、その善意の空間の中でもジニの傷は癒えません。このような宗教描写は数々のイ・チャンドン作品で描かれてきました。信仰や善意は人を救うこともあるが、救いの形式が当事者の痛みを覆い隠してしまうこともあります。『冬の小鳥』ではそれが子どもの視点で描かれます。

一方で、『冬の小鳥』はイ・チャンドン作品ほど重層的でなく、とてもシンプルに子供に特化して描きます。もしイ・チャンドン監督であれば、”父親の境遇” や “孤児院の闇” にもスポットライトを当てたかもしれません。しかしウニー・ルコントの視点でシンプルに作ったからこそ、この作品は “体験談” としての重みを持つのかもしれません

 

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