さよならはスローボールで

原題 Eephus
製作年 2024
製作国 アメリカ・フランス
監督 カーソン・ランド
脚本 マイケル・バスタ、 ネイト・フィッシャー、 カーソン・ランド
撮影 グレッグ・タンゴ
出演 キース・ウィリアム・リチャーズ、 クリフ・ブレイク、 ビル・“スペースマン”・リー、 ウェイン・ダイアモンド、 ジョー・カスティリオーネ

サッカーやバスケットボールなど他の球技ではこのような映画は作れません。敵同士でも試合中に歓談でき、試合が終わらず日が暮れるのは草野球ならではです。ピッチャーは「打ち取ってやる」とその覚悟を口にし、次の瞬間カメラは「こっちこそ打ち返してやる」と返すバッターを映す様子は、2人のガンマンを交互に映し出す西部劇のようです。プレーが途切れず連続する他のスポーツにはない “間” が多分にあることが野球の大きな特徴で、それが映画向きなのです。

製作は監督のカーソン・ランドが所属するロサンゼルスの映画制作集団「オムネス・フィルムズ」です。タイラー・タオルミーナ監督の『ハム・オン・ライ』など、独特の作風の作品を多く残していますが、オムネス・フィルムズの作品に共通するテーマは「21世紀における文化的衰退の様々な形態を捉えること」だそうです。だから『さよならはスローボールで』も “消えゆく場所”、”消えゆく共同体”、”消えゆく思い出” という衰退を感じさせる雰囲気で、”最後の試合” を通じて「ただ終わっていく様」を映し出すのです。ランド監督は映画館の最後の1日を描いたツァイ・ミンリャンの台湾映画『楽日』にインスピレーションを受けていたそうです。数ある他の映画とは真逆の美学を持った集団(会社ではない)が世に出した作品だと理解していないと、観終わった後に「何の映画だったの?」と疑問が残ってしまうことでしょう。

 

あの人たち必死だね
もっと大事なことが他にないのかな?

しかし、この映画は残念ながらスポーツ映画ではありません。だから試合に向けた努力もなければ挫折も無く、勝利すら良く分かりません。なにせ映画はただ “最後の1試合” を描いているからで、最後と言っても何の変哲もない田舎の日常で、延々と何も起きず、むしろグダグダの連続で、結局何だったのかも良く分かりません。だから子供たちに、ああいう風に言われてしまうのです。

 

盗塁するデブを照らす夕日って
最高に綺麗だな

選手同士のヤジは草野球で日常的に見られるものばかりですが、時々差し込まれる傍観者の会話が緩くて面白い。
あと、途中で突然現れる謎の老人がいますが、1イニングだけマウンドに上がり、またどこかに消えていきます。投げ方はクレイトン・カーショーそっくりですが、実は彼はビル・リーという元メジャーリーガーで、レッドソックス等で通算119勝を挙げている投手でした。勝利数以上に驚異的な記録として、63歳で独立リーグのチームと契約して勝利投手に、更に65歳でも別の独立リーグのチームと契約し、94球、四球ゼロ、最速70マイル(113キロ)で、20代中心のプロチーム相手に4失点完投勝利をした超人なのです。独立リーグとはいえプロリーグなので、これは世界のプロ野球における最年長勝利記録として残っています。

 

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