K-19

原題 K-19: The Widowmaker
製作年 2002
製作国 アメリカ
監督 キャスリン・ビグロー
脚本 クリストファー・カイル
音楽 クラウス・バデルト
出演 ハリソン・フォード、 リーアム・ニーソン、 ピーター・サースガード、 クリスチャン・カマルゴ、 ジョージ・アントン、 スティーヴ・ニコルソン、 ドナルド・サンプター

この映画は、次作の『ハート・ロッカー』で女性初のアカデミー監督賞を受賞するキャスリン・ビグロー監督にとって重要な作品でした。『ブルースチール』『ハート・ブルー』でダークな映像美と鮮烈なショットを残したビグロー監督ですが、元夫のジェームズ・キャメロンが製作・脚本した『ストレンジ・デイズ』で大コケし、次作の『悪魔の呼ぶ海へ』は完成後に製作会社が倒産して上映できない状態が長く続くという不運に見舞われます。しかし興行的には失敗しても “観客を惹きつける画力” を生み出す高い演出能力は評価されており、この作品では自身の持つ制作会社「First Light Production」が参加することで監督を任されることになりました。ただし企画が成立した大きな理由はビグロー監督ではなくハリソン・フォードの主演で、彼の出演によって一気に1億ドルもの予算が集まります。これによって、ビグロー監督は後の『ハート・ロッカー』『ゼロ・ダーク・サーティ』『デトロイト』へと続く、“紛争における体制と個人の対比” というテーマを確立するのです。

この映画は実話を元にしており、大まかな事件や経緯は本当ですが細かな人物描写は娯楽用に大きく脚色しています。それを踏まえた上でも、単純な娯楽作ではなく、この映画では国家の方針と現場で犠牲になる兵士」「放射能の恐怖」というの大きく2つのテーマが描かれます。1点目は今後の作品に繋がっていく大きなテーマで、この作品ではソ連の強硬的な軍事主導を描いていますが、これはソ連に限ったことではありません。現にK-19の原子炉事故の2年後にはアメリカの原子力潜水艦スレッシャーが度重なる事故の後、整備不良のまま出港して沈没・圧壊しています。(欧米はこの事件のことは映画化しませんが、K-19やクルスクの事故を映画化するのはなぜでしょう?) このように世界共通で起きている軍事領域での国家主導をビグロー監督はきっちり国家と現場を対比して演出し、殉職者だけでなく生存者も “英雄ではなく国家の犠牲” とみなして描きます。この辺りは次作の『ハート・ロッカー』に大きく繋がっていきますが、ビグロー監督はその演出力で “最前線に出される兵士の犠牲と高潔さ” を観客の感情にストレートに伝えます。その見せ方が非常にうまいのです。

2点目の放射能の恐怖は、原発事故を起こした日本では特に身近に感じることでしょう。高線量で被爆するとわずか数分でも死に至り、症状は映画で描かれた通りです。原爆開発のマンハッタン計画を描いた映画『シャドー・メーカーズ』でも研究中の事故で同様の症状が描かれていますが、目に見えない放射線が身体を内側から破壊していく恐怖が本当に恐ろしい。60年代の不安定な潜水艦の中に原子炉があること自体が信じられません。

予算規模に比べると「並みの娯楽作のような脚本」というハンデはありましたが、女性監督らしからぬ潜水艦内のディテールにこだわった造形や狭いスペースでの人員の動き、もともと感情に乏しいハリソン・フォードの上手い使い方など、監督としての手腕は確かなものがありました。次作からは3作続けて脚本家マーク・ボールとのタッグで更なる高みへと到達します。

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