おばあちゃんと僕の約束

原題 Lahn Mah
製作年 2024
製作国 タイ
監督 パット・ブーンニティパット
脚本 トサポン・ティップティンナコーン、 パット・ブーンニティパット
音楽 ジャイテープ・ラールンジャイ
出演 プッティポン・アッサラッタナクン、 ウシャ・セアムクン、 サリンラット・トーマット、 サンヤ・クナコーン、 ポンサトーン・ジョンウィラート、 トンタワン・タンティウェーチャクン

とても良い作品でしたが、英題は「How to Make Millions Before Grandma Dies」=「おばあちゃんが亡くなる前に何百万ドルも稼ぐ方法」というブラックコメディのようなタイトルです。原題の「หลานม่า(Lahn Mah)」は「祖母と孫」というシンプルなタイトルなので、なぜ英語圏では “遺産目当て” を前面に押し出すコメディ風を装ったのか分かりません。と言いつつ、この映画の登場人物は娘を除いて最後まで皆 “遺産目当て” です。介護している途中で考えが変わり、ヒューマンドラマ風に “お金目当てではなく、やっぱり愛情なんだ” とはなりません。東南アジア圏で上映された際の説明には「どの家庭にも存在する実話に基づいている」と書かれているそうです。それだけ、遺産と相続と介護のドロドロは世界共通の家庭問題であり、人類共通の悩みのタネなんでしょう。

これはタイ映画ですが、主人公の一族は中華系です。タイは他国より同化政策が進んでいますが、この一家は純粋に中華系の血を受け継いでいるようです。タイの文化は男性優位ではなく特に地方では結婚後に妻側の家に住む “妻方居住” が一般的で、相続も末娘が多くもらう代わりに両親の面倒を見るケースも多いので、映画で描かれている文化とは違います。ですので、タイよりは東アジア的と見る方が良いのかもしれません。ちなみに東南アジアだとベトナムが東アジアに近い家父長制で、マレー系やジャワ系は男女平等か母系が多いそうです。そういえば、ベトナム映画ではよく家父長制的な家庭が描かれていました。

映画の話に戻ると、この映画は “遺産と介護と愛” という三つ巴の問題を赤裸々に描きます。長男と主人公のエムは「愛はないが遺産が欲しいから介護」、長女は「遺産ではなく愛があるから介護」、次男は「遺産は欲しいが愛情表現は苦手で介護は無理」という立場です。その中で、エムは遺産目当ての介護を通じて明確に愛情が芽生えます。しかし愛情は芽生えても、遺産をもらえないことに対して明確に不満を表す。つまり “愛と金は別” という本音を映画は隠さず描いています。そこが建前ヒューマンドラマ(そういうジャンルはないですが…)とは違うところで、この映画が大きく評価された点だと思います。

ちなみに祖母の名は Mengju(メンジュ) で、これは明確に中国系です。家族から呼ばれる Amah(アマー) も人名ではなく、潮州語・福建語圏などで使われる「おばあちゃん」に近い呼称です。作中では少しだけ潮州語も使われています。一方、子どもたちの Kiang(キアン)/Sew(シウ)/Soei(スイ) は、中国語に近い名前をタイ語の音で表したものです。つまり祖母の世代だけでなく、その子どもの世代にも中国系の命名文化が残っています。ところが孫世代になると M(เอ็ม/エム)となり、タイでは一般的なニックネームになります(タイ人の名前は非常に長いので、日常生活ではニックネームを常用)。従妹の Mui(ムイ) も短い呼び名ですし、もう一人の小さな孫娘は Rainbow(レインボー)で、ここまで来ると非常に現代的です。世代による同化度合いが名前にも表れているのですね。

 

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