愛はステロイド

原題 Love Lies Bleeding
製作年 2024
製作国 イギリス・アメリカ
監督 ローズ・グラス
脚本 ローズ・グラス、 ベロニカ・トフィウスカ
音楽 クリント・マンセル
出演 クリステン・スチュワート、 ケイティ・オブライアン、 ジェナ・マローン、 アンナ・バリシニコフ、 デイヴ・フランコ、 エド・ハリス

これはごく稀に見る “分かりやすくキャッチーな邦題” の勝利です。原題は赤い血のような花を垂らす「ヒモケイトウ」の品種であり、”激情の叶わぬ恋” という意味を持つそうです。確かにストーリーは血を流す激情の恋ですが、ラストシーンでは恋が叶ったようにも見えます。しかしその恋は “虚飾” であり、ステロイドで補強したかのような見せかけの愛なのかもしれません。そういう意味で、この邦題はきっちりと内容も表しているのです。

20歳にして出演料が2000万ドルを超えるA級リスト俳優になったクリステン・スチュワートですが、作家性の高い低予算の映画にも積極的に参加し、演技の幅を広げることに余念がありません。今回はかなりの汚れ役ですが、楽しんで熱演しているようです。その “本気度” が観る人にも伝わってきて、ストーリーに真実味をもたらします。負けじとエド・ハリスも楽しんでます。スクリーンに初めて映る際、手の込んだ変装に引きのショットですが、眼を見るだけですぐに彼だと分かります。そんな二人が親子を演じて脇を固めているので、この映画は迫力というか底力があるのです。

どう見てもB級サスペンスになりそうな題材を、ローズ・グラス監督は一級の娯楽作に仕上げました。なぜB級に陥らなかったかというと、サスペンスを作ろうとしたのではなく、最初からサスペンス風の “寓話” だからです。なんの “寓話” かというと、ずばり “支配” です。決して表向きに言われているような「女性の解放」や「肉体的願望」ではありません。姉のベスは夫にDVを受けながら洗脳され、ルーは恐怖によって父親から支配されていました。一見するとルーは父親から解放されてジャッキーとの愛を成就させたかのように見えますが、そうではありません。実際はルーはジャッキーからも暴力を受けており、それでも彼女を愛し続け、ラストでは彼女が殺し損なったデイジーの後始末をしています。その間、ジャッキーは車ですやすやと寝ています。そう、ルーは常にジャッキーの後始末をしているのです。ですがジャッキーはそのことに気付いていません。この愛は対等な関係ではなく、明らかにジャッキーが上でルーが下なのです。姉の夫と父親を殺すことで、分かりやすい “見える支配” から脱却したように見えますが、実際は “見えづらい支配” に形を変えて残っているのです

しかも敢えてB級っぽく作ることで、細かな部分を描かなくても許されます。そんな確信犯的な作りに喜んで騙されると共に、”敢えてダサいCGの使いどころ” という離れ業まで見せてくれます。使い方を間違っているようですが、決して間違いではありません。あの “謎イメージ” のインパクトによってB級度が強化され、シリアスさも全否定して寓話に振り切ることができるからです。だからこの映画は細かい部分は気にせず、“形を変えた支配” というテーマだけを見て、表向きのサスペンスではなく裏の意味のサスペンスを堪能すると共に、クリステン・スチュワートとエド・ハリスの熱演を楽しむ映画なのです

love-lies-bleeding1