プライドと偏見

原題 Pride & Prejudice
製作年 2005
製作国 イギリス
監督 ジョー・ライト
脚本 デボラ・モガー
音楽 ダリオ・マリアネッリ
出演 キーラ・ナイトレイ、 マシュー・マクファディン、 ドナルド・サザーランド、 ブレンダ・ブレッシン、 ロザムンド・パイク、 サイモン・ウッズ、 ルパート・フレンド、 トム・ホランダー、 ジュディ・デンチ、 ジェナ・マローン、 キャリー・マリガン、 タルラ・ライリー

歴史ドラマを得意とするジョー・ライト監督のデビュー作。これがデビュー作?と驚くほど質の高い作品ですが、ジョー・ライト監督は既にテレビドラマで輝ける実績を残しており、満を持しての映画デビューでした。作品はジェイン・オースティンの名作「高慢と偏見」で、これまで何度も映画/ドラマ化されてきましたが、ジョー・ライト版は過去の伝統的な文芸歴史ドラマではなく、“若者の成長&青春物語” として現代的で新しい描き方をしています。確かにセリフは古典的で冗長な言い回しが多いですが(日本語字幕だとかなり意訳/短縮されています)、社会批評を含めたセリフ劇ではなく美しい大自然の中で若者の内面や感情、動きを強調しており、2000年代の「高慢と偏見」へと見事なバージョンアップに成功しました。

また、製作のバックアップ体制も強力で、制作会社にワーキング・タイトル、ユニバーサル、StudioCanalが名を連ね、プロデューサーのティム・ビーヴァン、エリック・フェルナー、ポール・ウェブスターに、脚本はデボラ・モガーと実績あるベテランで固めています。また、撮影・美術・衣装・音楽にも専門性の高いスタッフが配置されているように、これは普通の監督の普通のデビュー作ではなく、才能を保証された若手監督が満を持して送り出された “小さな大作” なのです。ジョー・ライト監督は、その期待に見事に応えました

 

人間は皆、傲慢と愚かさに毒されている。

この映画の特徴は3つ。“ストーリーを体現する俳優”“自然と空間”、そして “カメラワーク” です。もし2005年のアカデミー賞にキャスティング賞があったら、間違いなくこの作品は受賞に値するでしょう(キャスティング賞が追加されたのは2026年から)。  そのくらい、どの俳優も役柄にマッチしているのです。なぜ父親はドナルド・サザーランド?と思いきや、彼もスコットランド系カナダ人なんですね。そういう意味では5女のリディアを演じたジェナ・マローンだけアメリカ人なので、「恋に恋する15歳」という特異なキャラクターがよほどアメリカ人の彼女を抜擢するに値したのでしょう。だからイギリスアクセントでないことを見抜かれないよう、あのようにキャーキャーしたしゃべり方をさせたのかもしれません。4女キティを演じたキャリー・マリガンはこれがデビュー作で、出番は少なくとも何とか爪痕を残そうと必死の演技が観られます。そして、長女ジェーンを演じたロザムンド・パイク、主人公の次女エリザベスを演じたキーラ・ナイトレイにとっても、この作品で大きく注目されて羽ばたくきっかけとなりました。

次の特徴は荒れ地や草原、大木、断崖などを映し出す壮大な大自然です。映画の舞台としてだけでなく、象徴的なシーンでも様々な自然が挟み込まれます。原作には大自然を細かく描写するシーンはほとんどないので、これはこの映画の大きな特徴で、恐らくエリザベスが生きる世界の広さや、成長していく様を移動や動きで表現しているんだと思います。屋内の会話劇と屋外シーンが見事な対比になっています。

最後は技巧に富んだカメラワークです。皆さんはどこまで気づいたか分かりませんが、この作品では様々なカメラワークが駆使されています。まず多くの目に留まるのが舞踏会の長回しシーン。他の映画でもたまに見られますが、舞踏会の群衆の中を手持ちカメラで長回ししながら各登場人物の短い場面を流れるように順に映し出し、同時に複数のドラマや人物像を一気見させる手法です。あれは編集ではなく本当にワンカットで撮影したそうです。次に廊下の奥行きを生かしたシーンや、窓や扉を通したシーンが多用されています。これは心理的な窮屈さや境界を表すためで、“近いのに届かない距離” や “内と外の世界” のような比喩となっています。ダーシーとエリザベスのシーンでもカメラワークで心情を表しています。突然2人だけのアップになったり、対面しているのに一緒に映さず別カットで映したり様々な工夫がなされています。一番好きなのはエリザベスがコリンズの求婚を拒否した後、庭のブランコでグルグル回るシーンでした。エリザベスの視線となったカメラもグルグル回るのです。同じ風景が繰り返された後、一瞬だけ視界の隅に影が映る。一点で回り続けるブランコはエリザベスの停滞や迷いを表現する優れたツールです。そこに不穏な影を差し込むことで、エリザベスと共に観客も小さな驚きを体験するのです。そしてラストは背後から日の出に照らされる二人のアップで終わります。まるでベテラン監督のような老練な演出の連続でした。

というように、この作品はジョー・ライト監督のデビュー作ながら、優れた脚本・キャスティング・演出で、古典ながら非常に現代的な若々しい作品に仕上がっており、見ごたえ充分なのです。

 

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