クィア QUEER

原題 Queer
製作年 2024
製作国 イタリア・アメリカ
監督 ルカ・グァダニーノ
脚本 ジャスティン・クリツケス
音楽 トレント・レズナー、 アッティカス・ロス
出演 ダニエル・クレイグ、 ドリュー・スターキー、 ジェイソン・シュワルツマン、 ヘンリー・ザガ、 レスリー・マンヴィル

ウィリアム・S・バロウズが売れる前の1951~53年に書いた小説「Queer」を、ルカ・グァダニーノ監督が映画化。バロウズの自伝的小説ですが、当時の “Queer” は「性的逸脱者」「恥ずべき存在」など侮蔑的な言葉だったので、自虐的に付けたタイトルだったのかもしれません。終盤の解釈を除けば映画のストーリーは原作通りなので相当過激なストーリーを描いていたことになりますが、1959年に出版されて物議を醸す、この小説を同じ名前の主人公が登場する「裸のランチ」へと繋がる作品なので、それに比べると現実的なストーリーがあるだけマシとも言えます。

ストーリーはルカ・グァダニーノ監督好みのドロドロの同性愛ですが、今回の主人公は中年から年配へと差し掛かる男性です。その孤独で我がままで薬物中毒でだらしなく見栄っ張りな主人公を、ジェームズ・ボンドのダニエル・クレイグが情けなく演じるのです。実は途中で007に変貌するのでは?という期待も無く、ジェームズ・ボンドとはエンジェル・フォールのように落差の激しい人物像をダニエル・クレイグは見事に演じ切ります。退廃的な雰囲気が良く似合うメキシコシティで見せかけの虚勢を張り、気に入った男性をすぐに落とそうと日々励むが、実際はアルコールとドラッグ中毒の孤独な中年です。そこに魅惑的でハンサムな青年ユージーンが現れる。正直何を考えているのか分からない青年だが、中年ウィリアムは高嶺の花を掴もうとすぐに崖を登り始めます。彼を手に入れたいが、彼の考えていることが分からない。だから中年ウィリアムはユージーンを理解するために、南米の秘草 “ヤヘー” を使ってテレパシーを手に入れたいと考える。そして実際にユージーンを伴ってエクアドルに辿り着きヤヘーを体験するのだが、結局ユージーンは「自分はゲイではない」とウィリアムに伝え、彼の元を去ってしまう。そう、これは同性愛の映画ではなく “片思い” の映画だったのです。

開いた扉はもう閉じない
目を逸らすだけ

それ以降、中年ウィリアムはユージーンに会っていない。恐らくもう姿を現すこともないだろう。そこから先はグァダニーノ監督の美意識を前面に出した空想シーンが展開されます。主人公は自分がいるホテルのミニチュアを覗き込むと、もう一人の自分が廊下を歩いている。部屋に入ると赤い蛇が自分の尾を飲み込みながら涙を流している。これはウロボロスという “輪廻” や “永遠” を表す象徴ですが、この場合は中年ウィリアムがユージーンとの過去を消化できず、同じ過ちを繰り返してきたことを表しているのでしょう。そして、ベッドに横たわるユージーンはムカデのネックレスを身に着けている。グァダニーノ監督によるとムカデは “抑圧” を表しており、中年ウィリアムにとってユージーンは永遠に手に入れられない存在なのでしょう。更にユージーンはグラスを頭に乗せ、中年ウィリアムは誤ってグラスではなくユージーンの額を打ち抜いてしまう。そして何かから解放されたかのように一瞬ほほ笑み、喪失に気づいて泣き崩れる。これは原作の内容ではなく、作者のバロウズが酔っ払って元妻と “ウィリアム・テルごっこ” をしていて頭を打ち抜いたという実際の事件から取った描写です。

ウィリアムの人生は、一度開いてしまった扉を閉めることができず、死ぬまで目をそらし続けた哀しい一生だったのかもしれません。

 

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