何も知らない夜

原題 A Night of Knowing Nothing
製作年 2021
製作国 フランス・インド
監督 パヤル・カパーリヤー
脚本 パヤル・カパーリヤー、 ヒマーンシュ・プラジャパティ
撮影 ランビール・ダース
出演

2024年のカンヌ国際映画祭でグランプリに輝いた『私たちが光と想うすべて』を監督したパヤル・カパーリヤーのデビュー作。様々なイメージ画像を組み合わせた非常に実験的なドキュメンタリーで、”恋人に宛てた手紙” という形式を用いつつ、2015年~2020年にかけて発生した幾つもの抗議運動を繋ぎ合わせた社会的エッセイのような映画で、非連続な夜の夢の中のような映像に延々とナレーション的な語りが繰り広げられます。

学生運動の中心にあるのは、パヤル・カパーリヤー監督自身も関わった2015年6月12日~10月28日まで139日間続いたFTII(インド映画テレビ研究所)のストライキです。これはFTII会長にヒンドゥー民族主義の与党である「インド人民党」の息が掛かった人物が任命され、FTIIの自治や芸術教育の自由が損なわれるという危機感から発生したものでした。反対運動の規模は大きくありませんでしたが、ヒンドゥー民族主義を掲げる政府による教育/文化機関への介入を批判する運動として象徴的なものになりました。

2つ目の映像は「ロヒト・ヴェムラ事件」です。これはカースト制度における旧不可触民ダリットに出自を持つ学生の自死をきっかけに抗議が起こり、大学におけるカースト差別の象徴となりました。ヒンドゥー民族主義が教育機関でも広く蔓延っており、いまだ宗教やカースト制度によって多くの学生が迫害を受けているという文脈で描かれています。

3つ目の映像は「JNU騒動」です。これはJNU(ジャワハルラール・ネルー大学)の学生集会で反国家的スローガンが叫ばれたことに対し、学生が扇動罪で逮捕された事件に起因します。その後、言論の自由や大学自治、国家権力の介入、扇動罪の濫用に対し、JNUでは数千人規模の抗議活動が起こり、他の大学にも活動が広がっていきました。

4つ目の映像は「反CAA/NRC運動」です。これは近隣国からの移民に市民権を与えるための市民権改正法(CAA)で、ムスリムを対象外としたことが宗教差別だと批判されました。また、NRC(国民登録制度)と組み合わされることでムスリムが迫害されることに抵抗し、全国規模で一般市民も巻き込んで抗議活動が行われ、多くの犠牲者も出ました。

いずれの抗議運動も勝利を収めることはありませんでしたが、この作品は抗議運動を応援/賛美するわけでもなく、主張や記録が目的でもなく、むしろ疲弊し、権力に弾圧され、敗北した記憶を夢の中に閉じ込めて留めようとした作品に思えます。その静かなる思いがカパーリヤー監督の表現形式を通して伝わってきました。

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