盲井

原題 Blind Shaft
製作年 2003
製作国 中国
監督 リー・ヤン
脚本 リー・ヤン
撮影 刘永宏
出演 李 易祥、 王 双宝、 王 宝強、 安 静

監督の李 楊(リー・ヤン)は『盲井』『盲山』『盲道』という “盲” 三部作で、中国の社会問題をリアリティ度の高い犯罪サスペンスとして描いており、この作品は2003年ベルリン国際映画祭で銀熊賞・芸術貢献賞を受賞しましたが、内容が問題視されて中国国内では正式公開されませんでした。貧しい出稼ぎ労働者を炭鉱で故意に殺害して事故を偽装し、鉱山側から巨額の賠償金(示談金)を騙し取るという犯罪を描いていますが、これは昔の話ではなく2016年にも中国の鉱山で17人が殺害され74人(!)が起訴された事件があり、この映画になぞらえて「盲井式殺人事件」と呼ばれています。

原作は劉 慶邦の小説『神木』。誰もが良い小説だと認めていたが、下級鉱夫を題材にしており、ヒロインはおらず、舞台は都会ではなかったため、映画化しても絶対に儲からないだろうということは誰もが思っていた。リー・ヤンはそんなことは一切気にせず、あらかじめ用意しておいた契約書と札束を鞄から取り出し、即座に「神木」契約書に署名した。より現実的な脚本にするため、記者とともに近隣の炭鉱を視察するために、河北省、山西省、寧夏回族自治区から陝西省など各地を旅し、中国のほぼ半分を横断しながら、20以上の炭鉱で働いた。鉱夫たちが暮らす洞窟住居や掘っ立て小屋は、隅々まで黒い石炭の粉塵で覆われ、寝具さえも鋭い石炭の粉塵で覆われていた。彼らの生活は、石炭を掘り、食べ、飲み、眠るという一日の繰り返しだった。唯一の特別な習慣は、月末に賃金を受け取った後、街に出て実家に送金することであり、中には酒を飲んだり、街で売春婦を探したりする者もいた。
「私たちはただの肉片、石に挟まれた肉片に過ぎない」という鉱夫の言葉は、リー・ヤンの心に深く突き刺さった。「映画を作らないという選択肢はなく、作る義務があった。どんな困難に直面しようとも、この映画を完成させなければならなかった」と、彼は後に回想している。

映画のリアリティを保つため小道具やセットを使わず、地下300メートルの小さな炭鉱で撮影することにこだわった。木の杭だけで支えられた坑道を歩くと、暗闇から軋む音が響いた。撮影中、実際に炭鉱が崩落して2人が死亡し、数人が負傷した。炭鉱の所有者は小説のように遺族をなだめてニュースを隠蔽しようとしたため、別の場所で撮影するしかなくなり、比較的安全な別の国営炭鉱で撮影を継続することになった。撮影が終わってから4ヶ月経っても、リー・ヤンの鼻水にはまだ黒い石炭の粉が残っていた。

撮影資金を捻出するため自宅を抵当に入れ、2人の弟から多額の借金をしたが、それでも足りなかった。最終的に、友人がクレジットカードの限度額まで使い切ってくれたおかげでポストプロダクション費用を賄い、完成した映画のコピーを持ってベルリン国際映画祭へ渡航することができた。彼はこの映画を通して何かを伝えようとは思っていなかった。ただ物語を語っただけで、「それほど崇高なことではない」と話した。もし中国の人々がこの物語をきっかけに、映画に描かれた集団や問題に注目するようになれば、その注目自体が勝利なのだ。

この問題が繰り返されているということは、「悪人が悪事を働いた」というレベルの問題ではなく、”貧困と金銭”、”炭鉱という無法地帯”、”欲望にいとも簡単に負ける倫理” という根深い社会問題が背景にあり、それらが複合的に改善されない限り、この国では同様の問題が起こり続けるのです。この炭鉱は「闇炭鉱」と呼ばれる違法採掘です。だから安全管理はされておらず、人命も守られません。役人は当然その存在を知っていますが、賄賂等の利益還元によって見て見ぬふりをしています。本来は管理/取り締まるべき公的機関が腐敗すると、そのような無法地帯が生まれるのです。更には “金銭や利益のためなら簡単に人を殺してしまう” という恐ろしいまでの倫理観の欠如です。民主主義が成熟した国では、このような大量殺人は起こりえないでしょう。マフィアや暴力団ですら、組織的に多くの民間人を殺害することはないはずです。この作品は2000年前後の河北・山西省境付近で撮影されていますが、携帯電話が出てくるように数十年前ではなく当時を描いており、2016年にも事件が明確化されているように、単発的な問題ではなく延々と続いているのです。それが本当の恐ろしさなのでしょう。

映画では悪人の1人は情にほだされます。しかしその罪が消えることはありません。主人公の青年も潔白ではなく、最後は示談金を手にして犯罪現場を去ります。だからこの映画では何も解決せず、善人だった青年も、社会的悪に飲み込まれて終わります。”何も解決しない” という終わり方は『盲山』でも同様だったので、『盲山』で描かれた人身売買も現在も、きっとまだ無くなっていないのでしょう。

 

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主人公を演じた王 宝強は一般人だろうと思いましたが、この映画の舞台となった河北省出身の俳優で、この役に抜擢されるまではエキストラと肉体労働で生計を立てていたそうです。 それがこの役で数々の賞を受賞し、今では多くの作品に出演する人気俳優となりました。あの純朴だった青年が一流の俳優になるなんて、人生何が起きるか分かりませんね。(右下の画像は20年後の彼です)

Wang Baoqiang(Chinese mainland film and television actor, director, and singer)_Baiduwiki Baoqiang Wang Pictures | Rotten Tomatoes