大理石の男

原題 Człowiek z marmuru
製作年 1977
製作国 ポーランド
監督 アンジェイ・ワイダ
脚本 アレクサンドル・シチボル・リルスキ
音楽 アンジェイ・コジンスキ
出演 クリスティナ・ヤンダ、 イエジー・ラジヴィオヴィッチ、 タデウシ・ウォムニツキ、 ヤツェク・ウォムニツキ、 ミハウ・タルコフスキ、 マグダ・テレサ・ヴイチク、 レオナルド・ザヨンチコフスキ

アンジェイ・ワイダ監督の数ある代表作の中で、社会主義体制を真正面から批判した名高い作品です。前作の『約束の土地』では資本主義によって人間性を変えてしまう若者たちを描きましたが、この作品では母国ポーランドの歴史を重ねて “社会主義国家の虚飾” を描きます。更にこの作品では、社会主義国家において “映画がどのように悪しき役割を果たし、それでも映画の力によって過去を暴き、少しでも良い未来を見据えることが出来る” という希望も同時に描いています。

作品の大きなテーマは「権力が国民を操り、映像が偽りの歴史を残し、労働者は使い捨てに過ぎない」ということです。高いノルマを乗り越える “理想的労働者” として称えられたビルクートですが、実際はプロパガンダ映画によって作り上げられた嘘の実績でした。それでも彼は大理石の銅像が作られ英雄視されてしまうほど、国家とメディアによって持ち上げられます。同僚の裏切りにあった際は、国家によって「同僚は西側スパイだった」という “でっち上げ” が行われます。しかし、ビルクートは同僚を庇い、かつてお蔵入りとなったプロパガンダ映画で自分が役人に魚を投げつけたことを持ち出します。それが原因でビルクートは服役しますが、その間に庇ってあげた同僚は国家の政治集会を仕切る立場となり、更に妻も逃げ出しており、ビルクートはその現実に酷く幻滅します。

社会主義国家は簡単に英雄を作り出せるし、消すことも出来る。また、社会主義国家は労働者を称えているように見せかけて、労働者から搾り取るためにコントロールしているのです。さらにそのような国家ではプロパガンダ映画が嘘を作り出すことで、その一端を担っています。『約束の土地』では人間が資本主義の道具になることを描き、この作品では人間が社会主義の道具にされるのです。連続した2本の映画で、アンジェイ・ワイダ監督は両方の現実を鋭く切り取り、見事に描いて見せます。

しかし大きく驚いたのは、これまでのアンジェイ・ワイダ作品と異なり、まるで70年代のアメリカのテレビ映画を観ているような映像・音楽・テンポで進むことで、主人公の映画監督志望の女学生アグニェシカが冒頭で教授に遠慮なく畳みかけるシーンからラストまで走り回り、畳みかけます。ベルボトムのジーンズにヒールを履き、ディスコ調の音楽に乗ってチャーリーズエンジェルのように駆け回ります。明らかにこれまでの伝統的映画ではなく、テレビ的で今観ても違和感のない現代的な演出です。更に、この時代にこれほどアグレッシブで自力で道を切り開く女性主人公を登場させた社会的映画は他にはなく、『エイリアン』のリプリーは1979年、『グロリア』でも1980年なので、恐らく “世界初” なのではないでしょうか。そういう点でも非常に画期的な映画なのです。クリスティナ・ヤンダ演じるアグニェシカのキレッキレの口調、幾度となく見せる決めポーズ、相手をたじろがせる目力、躊躇なく石像に馬乗りになりカメラを回す姿、すべてが1977年の映画とは思えない新しい演出なのです。国の歴史を再構築する主人公に女性を起用したことは、旧来ではない新たな世界を切り開くという意図を持ったワイダ監督の大きな決断でした。ちなみにポーランドを代表する女性監督アグニェシカ・ホランドは当時アンジェイ・ワイダ監督の下で働いており、映画監督の現場仕事を見るためにクリスティナ・ヤンダはアグニェシカ・ホランドの現場を見学して参考にしたそうですが、主人公の名前は元からアグニェシカに決まっており、アグニェシカ・ホランドから取られたわけではないようでした。

 

czlowiek-z-marmuru1