恋恋風塵

原題 戀戀風塵/Dust in the Wind
製作年 1987
製作国 台湾
監督 侯 孝賢(ホウ・シャオシェン)
脚本 呉 念眞、 朱 天文
音楽 陳 明章
出演 王 晶文、 辛 樹芬、 李 天祿、 林 揚、 梅 芳(メイ・ファン)、 陳 淑芳、 頼 徳南、 林 于竝

この映画は人物と時代を淡々と映し出します。映画は突然始まり、背景の説明もなく、暮らしぶりや人間関係をただ映し出し、次のワンカットでいきなり場所も時間も飛び越えてしまう。それでも何の説明もなく、登場人物たちの心情は一言も漏らされることなく、重苦しい日常生活が続いていく。重大だと思われる事件も短い回想シーンのみ。なぜならこの映画は甘酸っぱいラブストーリーを想起させるタイトルとは裏腹に “苦い記憶” の断片であり、貧困・孤独・喪失など自分の力ではどうにもならない人生を描いたものだからです。記憶の断片は正確な時間や事実よりも、過去を思い返した際の現在の感情によって形作られているのです。

前作の『童年往事 時の流れ』がホウ・シャオシェンの自伝だったのに対し、この映画はホウ・シャオシェンと長年タッグを組む監督/脚本家の呉念眞(ウー・ニェンツェン)の自伝です。だから映画的な甘いストーリーではなく、人間感情や恋や人生は辛く厳しく思い通りに進みません。1960年代の台湾は重苦しい時代を過ごしています。1947年の二・二八事件をきっかけに、1948年~1992年まで実に38年もの間、台湾は戒厳令によって政府と軍の管理下に置かれており、この映画で描かれる時代はその真っ只中です。主人公の一家は1945年の台湾光復より前に中国本土から台湾に渡った「本省人」ですが、初期移民は農民中心の開拓民が中心でした。いつ本土から渡ってきたか祖父は何も話していないので、恐らくは何世代か前から台湾に住んでいるのでしょう。長く台湾に住んでいる人々の中にも裕福な人はいますが、主人公が住む炭鉱町は農業と炭鉱が中心で貧しいままです。抜け出すには大学に進学する必要がありますが、結果は伴わず、そうなると印刷や配送などの肉体労働者としての未来が濃厚です。将来が見通せないと精神的にも窮屈になり、いつも心配そうに接してくれる彼女と向き合うこともできません。だから最終的に、彼女は安定した職業の人を選んでしまうのです。

ラストの祖父の話は、「成長のためには必要なものを絶つことも必要」「何かを失うことで成長することもある」という趣旨です。恵まれた人生や縛られた過去という “蔦” が生い茂ると逆に成長できないこともある。何かの影響で “蔦” が切れると、芋は予想外に成長するのだと。『童年往事』が “中国大陸から来た家族が台湾に根を下ろせないまま台湾化していくストーリー” だったのに対し、『恋恋風塵』は “台湾に根を持つ若者が社会の荒波で人生を立て直そうとするストーリー” でした。

 

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