イースタン・プロミス

原題 Eastern Promises
製作年 2007
製作国 イギリス・カナダ・アメリカ
監督 デヴィッド・クローネンバーグ
脚本 スティーヴ・ナイト
音楽 ハワード・ショア
出演 ヴィゴ・モーテンセン、 ナオミ・ワッツ、 ヴァンサン・カッセル、 アーミン・ミューラー=スタール、 イエジー・スコリモフスキー、 シニード・キューザック、 ドナルド・サンプター

デヴィッド・クローネンバーグ監督が普通のマフィア映画を作るはずもなく、これはクローネンバーグ監督がいつものテーマをマフィア映画の形式を借りて作った作品です。すなわち「人間が作り出す現実」と「身体的変化」を、マフィアという閉鎖的な共同体で描いた作品です。

ナオミ・ワッツ演じる助産師のアンナは、血縁によって家族を形成する一般人です。一方、謎の運転手ニコライは、入れ墨によってファミリーを形成するマフィアの一員です。アンナにとって肉体は自分そのものであり書き換えられないものですが、ニコライにとって肉体はファミリーのものであり書き換えられてしまうものです。だから入れ墨を入れることでアイデンティティが上書きされ、ナイフで切り刻まれて原型を留めない場合もあるのです。この映画はマフィア映画ですが、銃は登場しません。クローネンバーグ監督だけに、「身体的変化」を伴うナイフにこだわるのです。そして、マフィアでは一般のルールは通用しません。独自の価値観とルールがあり、”別の現実世界” を作り出しているのです。これもクローネンバーグ監督のテーマの一つです。

また、ニコライは実は潜入捜査官ですが、彼の本当の意思とは別にロシアンマフィアという民族的共同体に取り込まれていきます。他のクローネンバーグ作品のように露骨な身体変容はありませんが、『ヴィデオドローム』で映像世界に取り込まれた男や『ザ・フライ』でハエに取り込まれた男と同じように、ニコライの体は書き換えられて別の現実社会に取り込まれるのです。

冒頭で2人の登場人物が命を落とします。一人は体中の入れ墨を記録として残し、もう一人はどちらにも秘密が隠された2つのものを残す。そう、日記と赤ちゃんです。一方の記録が入れ墨なのに対し、もう一方の記録は文字と命(DNA)という対比です。また、乳児は一般人にとって救うべき命であり “未来” ですが、マフィアにとっては消すべき命であり “証拠” でしかありません。アンナとニコライが所属する世界では、命に関する価値観は絶対的に正反対であり、これも対比になっているのです。見事な脚本でした。

 

eastern-promises1