オオカミの家

原題 La Casa Lobo
製作年 2018
製作国 チリ
監督 クリストバル・レオン、 ホアキン・コシーニャ
脚本 クリストバル・レオン、 ホアキン・コシーニャ、 アレハンドラ・モファット
撮影 クリストバル・レオン、 ホアキン・コシーニャ
出演

CGを一切使わず、絵と人形を作り直しながらストップモーションで表現する(映像を作り上げる)という手法に、まずは驚嘆します。壁に描かれた巨大な絵が移動していく映像は、実際に一コマずつ絵を描き直して撮影しているのです。製作期間4年以上という歳月に頭が下がりますが、監督のクリストバル・レオンとホアキン・コシーニャは本来は本物の芸術家。だからこの映画も芸術活動の一環として、美術館など公共施設の中にオープンセットを作り、チリ国内だけでなくアムステルダムやハンブルクなど複数の都市・展示施設を巡回しながら人の目に触れる状態で作っていったそうです。映画製作自体が芸術活動になっているんですね。

この映画は、「コロニア・ディグニダ」というチリ国内のドイツ入植地にナチス思想を受け継ぐキリスト教団体が入り込み、今なお続くカルト教団を作り上げた暗黒史を描いたものです。(この辺りは同時期に作られた『コロニアの子供たち』という映画で事件の一端が描かれています) そこから逃げ出した少女マリアが主人公で、しかしいつしかマリアもアナとペドロという姉弟を “教育によって人間化” してしまい、最終的には困ってオオカミ(カルト教団)に救いを求めるというストーリーです。それがコロニア・ディグニダのプロモーションビデオという設定で描かれる。マリアは自己流の救いで子供たち(アナとペドロ)を燃やしてしまい、ハチミツ(教団の手法)によって金髪の人間(アーリア人)に生まれ変わらせるのです。

マリアは悪いことをしたのでしょうか? マリアは被害者で、悪い人達から逃げる必要があったから隔絶された環境で子供を育てざるを得なかったのです。それは裏を返せば、カルト教団を正当化する理由になります。これがこの映画の難しいところで、被害者が同じ被害者を増やしてしまう “カルト支配の二重構造” を描きつつ、被害者の論理をかざすと我々も悪い環境から逃げるために仕方がないことをしたのだとカルト教団を正当化することになるのです。だからこの映画は実に恐ろしい矛盾を突いており、だからこそ “カルト教団のプロモーションビデオ” という設定なのです。

なお、クリストバル・レオンとホアキン・コシーニャが送る次作の『ハイパーボリア人』も、同じくチリとナチス思想を背景にテーマを拡張した強烈な映画です。

 

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