オフィシャル・シークレット

原題 Official Secrets
製作年 2019
製作国 イギリス・アメリカ
監督 ギャヴィン・フッド
脚本 ギャヴィン・フッド、 グレゴリー・バーンスタイン、 サラ・バーンスタイン
音楽 ポール・ヘプカー、 マーク・キリアン
出演 キーラ・ナイトレイ、 マット・スミス、 リス・エヴァンス、 マシュー・グード、 アダム・バクリ、 レイフ・ファインズ、 インディラ・ヴァルマ 、 タムシン・グレイグ

情報漏洩&告発映画というと『スノーデン』や『リアリティ』を思い浮かべますが、この作品は実際に起きた戦争に直結した国家的陰謀を描いており、より重みがあります。監督は『ツォツィ』で世界的に注目されたギャヴィン・フッドで、他の作品でも「紛争や戦争に関わる状況での “倫理的ジレンマ”」 を描いています。戦争を防ぎ、防衛を目的とすべき情報機関が国家の不正を隠すことに使われていると知った時、内部の者は果たしてどうすべきでしょうか?

実在の人物を描いているにもかかわらず映画はいきなりベッドシーンから始まり、この映画にデリカシーは無いのだと観客に分からせます。ベッド中で主人公キャサリンは「隣人に聞こえるわ」と言いますが、愛の行為が隣人に漏れる代わりにキャサリンは国家機密情報を外部に漏らします。なぜなのか? 動機は非常に重要ですが、実際はかなりグレーです。映画では「国際法違反を犯して戦争を起こそうとしているから」とされていますが、もしかしたら「戦争に反対だから」だったかもしれません。前者であれば正当性がある程度認められますが、後者であれば単に “個人の思想” で起こした犯罪になるかもしれません。後から何とでも理由付けできてしまいますが、行動を起こすきっかけになった最初の思考は誰にも分からないのです。そこがこの問題の本来重要な点ですが、結果的に大量破壊兵器が見つからなかったのと同じように、キャサリンの真の動機がどうであれ、結果的にイギリス政府は国際法違反と分かった上で戦争に加担したと後から判明したのです。ですのでキャサリンがどこまで “正義のヒロイン” だったか釈然とせず、ただこの映画は「正当な選挙で国政トップを選んだ民主主義国家が、自らの利益のために平気で戦争を起こす」、結果として「自国民の命も他国の国民の多くの命も犠牲にした」という事実を描いている点で評価できるのです。

キャサリンは何に怒っていたかというと、イラクへの武力行使を決める国連決議に向けて、アメリカNSAがアンゴラ、カメルーン、チリ、ブルガリア、ギニア、パキスタンなどの浮動票国への通信傍受をイギリスGCHQに求めたからです。それが飛躍して「不正に操作して戦争を合法化しようとしている」と考えた訳ですが、確かに通信傍受が国際法違反だとしてもロシアも中国もやっていることで、その時点では実際に弱みを握って圧力を掛けた事実も無いし、国連決議に向けた賛成/反対の票集めは通常の外交活動とも言えるでしょう(現実として反対多数が見込まれたので米英は国連決議は行いませんでした)。もし自国が関与する武力行使の国連決議でないケースだったとしても「同じ正義感で国家機密をリークしたのか?」というと、恐らくしないでしょう。だからキャサリンの動機は「戦争反対」という思想に基づいたものだったはずです。「大量破壊兵器は存在しなかった」「法務長官は違法性を事前に認識していた」というのは後から分かったことなので、もし大量破壊兵器が見つかり、法務長官も違法と考えてなかったとしたら、”違法性のない武力行使を妨害しようとした” という重大な国家的犯罪を犯した罪で有罪になっていた可能性が高いのです。だから諸手を挙げてこの映画を称賛する気にはなれないのです。

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