ワン・バトル・アフター・アナザー

原題 One Battle After Another
製作年 2025
製作国 アメリカ
監督 ポール・トーマス・アンダーソン
脚本 ポール・トーマス・アンダーソン
音楽 ジョニー・グリーンウッド
出演 レオナルド・ディカプリオ、 ショーン・ペン、 ベニチオ・デル・トロ、 チェイス・インフィニティ、 レジーナ・ホール、 テヤナ・テイラー、 アラナ・ハイム、 ウッド・ハリス

前作『リコリス・ピザ』の後、クレジットには表記されていませんが、裏でリドリー・スコット監督の『ナポレオン』やマーティン・スコセッシ監督の『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』の脚本に携わっていたポール・トーマス・アンダーソン監督。『ナポレオン』にはP.T.A.作品の2作で主演を務めたホアキン・フェニックスが出ており、『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』には今回の『ワン・バトル・アフター・アナザー』で主演を務めたレオナルド・ディカプリオが出ています。巨匠監督2人の脚本見直しに呼ばれるのも凄いですが、そのような縁もあって俳優や監督との繋がりも増えていくのかもしれません。

これまで娯楽作ではなく作家性の強い作風で独自の映画世界を作り上げ、ファンを強く惹きつけてきたP.T.A.監督。今回は作家性を残しつつ、娯楽寄りの作風となりました。製作費は1億5000万ドル前後と大作級で、興行収入は2億ドル以上という過去に無い規模の作品です。「これは大衆受けするし、賞レースも狙える」と読んだ制作会社の賭けに、P.T.A.監督は見事に勝ちました。ちなみにP.T.A.作品の製作費の過去1位は『リコリス・ピザ』の4000万ドルで、2位は『マグノリア』の3700万ドル。『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』や『ザ・マスター』は作品の重厚感からすると製作費がもっと掛かっているように見えますが、実際は高級インディペンデント映画程度の製作費でした。それが今回は一気に1.5億ドル掛け、見事にアカデミー6部門受賞です。本来は世界の賞レースを席巻した『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』で受賞するはずでしたが、なぜかコーエン兄弟の『ノーカントリー』に奪われるという悲劇があっただけに、今回は順当に勝ち取った印象です。

原作は『インヒアレント・ヴァイス』と同じトマス・ピンチョンの小説ですが、今回は現代風ストーリーに大幅アレンジしています。大きなテーマは “革命思想と家族” で、反体制・移民解放の革命運動に参加する主人公は革命リーダーの女性と結ばれ、子供が生まれます。リーダーである妻は革命を続けますが、革命と子供を同じ天秤に乗せて釣り合わせることはできません。つまり革命のような “反体制的活動” と、”家族愛” は両立しえないのです。だから主人公のボブは活動から足を洗い、娘を守るために身を隠す。そして親の思想は子供には受け継がれません。世代が異なれば思想も異なるのです。親世代が身を守ろうとした目的/手段とは別の方法で、子世代は自分なりの身の守り方を身に着けます。昔は “思想” や “主義” があり、集団で大きな敵/体制と戦いましたが、現代の子供たちは昔のような思想や主義は受け入れず、個々で戦っているのです。

そして敵に当たるのが “国家の武力組織” と、”白人至上主義” です。今回アカデミー助演男優賞を受賞したショーン・ペン演ずるロックジョーは反移民機関MKUの大佐であり、クリスマス・アドベンチャラーズ・クラブへの入会を強く希望しています。しかし彼には確固たる信念や主義は無く、あるのはただの出世欲と権力欲だけです。つまり、国家や白人至上主義の本当の構造は、信念や主義を持った人々の総体ではなく、出世欲と権力欲に塗(まみ)れた人々を一部の人が動かしているだけなのです、

そのように、この映画は様々な現実の “構造” を映し出しつつ、更に体制と反体制を繋ぐウィラの存在と謎が秀逸です。これまで多くの作品でP.T.A.監督は “疑似的な親子や家族” を描いてきましたが、今回もそのテーマは踏襲されています。しかし過去作のような重苦しさはなく、この映画は様々な描写を “動き” で表現します。動くことで停滞せず、解き放たれ、次の解決策と居場所を探し求めます。映画の “動き” を目で追いつつ、我々の頭も常に動き回るのです。

作家性と娯楽性を両立した見事な大作でした。

 

one-battle-after-another1