ザ・ザ・コルダのフェニキア計画

原題 The Phoenician Scheme
製作年 2025
製作国 アメリカ・ドイツ
監督 ウェス・アンダーソン
脚本 ウェス・アンダーソン
音楽 アレクサンドル・デスプラ
出演 ベニチオ・デル・トロ、 ミア・スレアプレトン、 マイケル・セラ、 リズ・アーメッド、 トム・ハンクス、 ブライアン・クランストン、 マチュー・アマルリック、 リチャード・アイオアディ、 ジェフリー・ライト、 スカーレット・ヨハンソン、 ベネディクト・カンバーバッチ、 ウィレム・デフォー、 ビル・マーレイ、 シャルロット・ゲンズブール

“ザ・ザ・コルダ” とは何者で、”フェニキア計画” とは何だったのか?
古代フェニキアといえば中東をイメージしますが、砂漠やジャングルや山岳地帯など様々な地形が出てくるので、これはいつものウェス・アンダーソン映画である架空の世界で繰り広げられる物語です。
多くの評論ではザ・ザ・コルダは悪い帝国主義者の象徴ように書かれていますが、そうは思いません。彼は「6度の暗殺未遂」や様々な妨害にも負けず、国民のために大規模なインフラ計画を進める国家元首なのでしょう。タフなネゴシエーターですが、私利私欲のためではなく、あくまで計画実現のためかもしれません。子供たちに対する愛情は欠落していますが、生まれながらに敵が多く、愛のない家庭に育ち、身内にも安心できず、それでも国家事業を推進するために家族を顧みる余裕はありませんでした。息子たちはまだ幼いですが、男性は誰も信用なりません。唯一心を許せそうな身内は修道女見習いの娘くらいです。もしザ・ザ・コルダが悪人ならウィレム・デフォーが演じていたでしょう(今回も悪い笑みを浮かべた天使で出ています)。でもこの映画はウィレム・デフォーではなくベニチオ・デル・トロが演じています。他の映画でベニチオ・デル・トロが演じた役を思い浮かべてください。“素性は良く分からないし悪そうに見えるが実は善い人” という人物像が非常に多いですよね。

フェニキア計画とは、インフラ整備のための一大国家プロジェクトです。ザ・ザ・コルダはこの計画を自己の利益のために推し進めている訳ではありません。映画の中で「国民のため」とは明言していませんが、ラストを見ればそれは明白です。彼はヒルダ・サスマンやヌバルという身内2人からの支援を受けられなかったがために、私財を投げ打ってこのプロジェクトを推し進めるのです。“ビジネスパートナー達は理解を示して協力してくれたのに、身内は協力してくれない” というのは何か皮肉ですよね。観客のために独自の世界観で映画を作り続けるウェス・アンダーソンの投影かもしれませんし、自己ではなく他者のために信念を持って大規模なプロジェクトに取り組み続ける人々の投影かもしれません。

ザ・ザ・コルダは普通の家庭で育っておらず、家庭を築いたり、家族との関係を構築したり、父としての務めの果たす方法が分かっていません。消去法でリーズルを呼び寄せますが、やがてリーズルとの関係を通して自分の生い立ちや家族の在り方を見直し、最後は『ワン・バトル・アフター・アナザー』のように自分の本当の子ではなかった娘と親子関係を約束する。ザ・ザ・コルダは改心した訳ではなく、認識を改めた訳でもありませんが、娘との関係を通じて初めて家族というものを認識します。結局、ザ・ザ・コルダという人間は英雄でも悪人でも善人でもなく、一人の父親だったのです。

ベニチオ・デル・トロも良かったですが、修道服にアンパンマンのような丸顔が良く似合うミア・スレアプレトン(ケイト・ウィンスレットの娘)の無表情ぶりも、とても役に合っていたと思います。

 

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